2012年12月26日水曜日

『田中一光とファンシーペーパー その色彩と質感へのまなざし』:可能性と憂鬱

田中一光とファンシーペーパー その色彩と質感へのまなざし
「特種東海製紙 Pam東京」で開催された『田中一光とファンシーペーパー その色彩と質感へのまなざし』を観てきました。

田中一光さんは長年に渡り「特種東海製紙」の総合的なアートディレクターを務められました。『Pam』というのは「Paper and material」の略で、この展示スペースのネーミングもご自身によるものです。「デザインは社会的に機能していなければならない」という原則のもと、常に社会と企業と自分自身との関係を注視しながら、商品開発に積極的に参加されていました。その中のひとつ「特種東海製紙」では、顧問デザイナーとして多数のファンシーペーパーの開発に携わっています。コンセプト立案からネーミング、そしてプロモーションに至るまで、関わった仕事のあらゆる領域に前のめりに、積極的な姿勢で向き合っていました。

田中一光とファンシーペーパー 会場



★田中一光とファンシーペーパーの開発 年表
1971 レザック71
1975 レザック75
1980 レザック80つむぎ/もみがみ
1982 レザック82ろうけつ
1984 リバーシブル*/ウッド*
1985 ボス/リバーシブルブラック*
1987 TANT/カラベ(現ニューカラベ)
1988 みやぎぬ/江戸小染はな
1991 江戸小染うろこ/岩はだ
1992 レザック66増色/ルーセンスS/ルーセンスはな*/
      ルーセンスF*/ルーセンスR*/江戸小染かすみ/
      コルキー/トーメイあらじま/トーメイ新局紙/
      トーメイパミス
1993 木はだ*
1996 レザック96オリヒメ/Mr.B
1998 里紙/Mr.Bm
1999 マーメイド増色/TANT-e
2000 Mr.A(現Mr.A-F)/マザー*
2001 TANT-V/ミセスB(現ミセスB-F)/
      ルーセンスJr.はな*/ルーセンスJr.フラット*/
      ルーセンスJR.スモーク*/ルーセンスJr.R.
2002 ピケ*
                    (*印:現在廃品)

30年の間に開発された製品には、以上のものがあります。
「TANT」、「Mr.B」、「里紙」は、知名度も高くよく使用されている用紙ですが、中でも「TANT」は150色と色のバリエーションも豊富で、田中さんだからこその選定といえるでしょう。

会場には田中さんが開発された用紙と、使用例としてそれらが実際に使われた書籍や商品、ポスターなどが展示されていました。用紙の色味や質感と共に印刷効果や仕上がりを確認することができる貴重な機会で、加工された製品を観ると、完成形として生まれ変わったような新鮮さ、素材の持つ表情の豊かさを強く感じます。今では当たり前のように使われているファンシーペーパー高級印刷用紙も、デザインを制作する現場からの声が反映され、様々な過程を経て開発されたのだということが腑に落ちる、実りの多い展示内容でした。

日本の用紙は見た目の美しさはもちろん、質感や手触り、バリエーションなど、非常に優れていると常々思っていましたが、こういったきめ細やかな製品開発の背景を知り、改めてその奥行きの深さに感銘を受けました。もはや、製品開発に留まらず、文化そのものをアップデートしているような印象すら覚えます。例えば機能美を兼ね備えた用紙に効果的な印刷や加工を施すことによって、書籍や製品開発などの可能性も広がります。多彩な質感や色の展開は、背景に着物など日本特有の文化の影響が感じられ、日本の用紙は世界に誇れるものであることを再確認しました。

「iPad」を皮切りに「Nexus」、「Kindle」と様々なタブレットや電子書籍リーダーが近年、インターネット上では話題になっています。しかし実際にそれらが日本でどれだけの広がりを期待できるか、は未知数でしょう。無条件に楽観的になるほど見通しが良くもなく、悲観するほど売れないわけではない、といったところでしょうか。
仮に音楽ソフトがかつての「Vinyl」から「CD」、そして配信へと取って代わったように書籍の主流が電子書籍になったとします。そうなった時、世界に類を見ない、日本の見事な製紙技術が失われてしまうのではないか、という懸念を私は覚えずにはいられません。知識や知性と呼ばれるものの実像も、少なからず影響を受けると思われます。
しかし、紙でなければ実現できない表現方法を採用する場面もありますから、この先も紙の本がゼロになることはないでしょう。今回の展示会ではそんな懸念と可能性をない交ぜに感じさせられるような体験となりました。これもまた、用紙の持つ力に魅了された故のこと、でしょうね。

東京本社内にある「Pam東京」は、特種東海製紙の全製品を見ることができます。壁一面にファンシーペーパーのサンプルを収めた引き出しがあり、サンプルを自由に持ち帰れるようになっています。

※『田中一光とファンシーペーパー その色彩と質感へのまなざし』は、12月21日に終了しました。

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2012年12月12日水曜日

『デヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス』 : 表現に強さを生むのは必然性

デヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス
新作を準備中というデヴィッド・リンチ監督の写真・絵画展に行ってきましたが、意外な事に今回の展示は過去最大級だったそうです。また、10代後半の方が多く来場されていたのが意外でした。例えばパンクロックなどの音楽はいつの時代にも特定の年代に支持されるものですが、かつてはカルトヒーローだったリンチもそんなポジションに行きつつあるのかもしれません。

ところで、展示会のタイトルは『デヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス』。らしいといえば、らしいですね。今回はキーワードになっている『暴力』『静寂』について、私なりに考えをまとめてみます。結論から書きますと、タイトル通りに『暴力』と『静寂』、対立するこの二点がリンチ作品のホネになっていると感じました。映画に最も大切なのは主人公と敵、善と悪といった『対立の概念』だそうです。しかし、リンチや映画に限らず、そもそも西洋社会の表現のモチーフのほとんどは『対立』だったりします。そこで今回は「デヴィッド・リンチの『暴力』と『静寂』という対立」に絞って、色々と考えてみました。

リンチの『暴力』について、私がまず思い浮かぶのは、最高傑作『マルホランド・ドライブ』のオープニング、クルマの衝突事故です。衝突事故は言うまでもなく一大事なのですが、その事故も素朴に演出してしまうと、「意外とこんなものか。思っていたほどの画じゃないね」という画面になりがちだと思うのです。しかし、リンチの演出は衝突事故のシーンで「過去にこれ以上、暴力的な事故シーンはなかった」と感じられる演出がされています。(なってしまう?)時間にして二秒もないですし、これは私だけの感じたインパクトかもしれません。しかしこの二秒こそがリンチの持つ表現のパワーをストレートに現している、他の誰にも真似できない一瞬ではないか、と私は思わずにはいられません。

リンチの『暴力』について、次に私が思い浮かべるのは60年代後期のロスを舞台にした犯罪小説です。ケネディ暗殺の真相だったり、ハリウッドのスキャンダルだったり、マフィアが暗躍する小説、作家で言うとジェームズ・エルロイ辺りでしょうか。日本に住む私たちには不条理な世界観に没入するようなリンチの映画は、あまり現実的には思えないかもしれません。しかし、リンチの地元、ロスの人にはとてもリアリティのある世界観だそうです。このリアリティの差異が、ジェームズ・エルロイなんかの小説を読んでいればロスという土地にあるのは間違いないと感じるのですが、それ以上に重要だと思われるのがリンチ特有の恐怖感、『一皮めくれば常に別の世界がある』です。

リンチは幼い頃、グリーンピースが食べられませんでした。「おそらく、外側は張りがあって固いのに、中から飛び出てくるものは違った質感だからだろう」と本人は想起していましたが、実は『一皮めくれば常に別の世界がある』というこの恐怖はリンチの全作品を支配しています。『ブルー・ヴェルヴェット』のオープニングでも美しい芝生の下に蠢く虫のカットを入れていますが、この『一皮めくれば常に別の世界がある』という感覚は、先程の犯罪小説の『面白さ』のキモになっているもので、今回の写真・絵画展はそれら『別の世界』の破片を集めてきたような印象でした。


デヴィッド・リンチから、この展覧会に寄せたメッセージ作品。

『暴力』に対して、『静寂』はサバイバルの手段です。例えば『ワイルド・アット・ハート』のローラ・ダーンの台詞「この世界はワイルドなことばかりで……」や『イレイザー・ヘッド』のラジエーターの中の世界を参考にするのが良いでしょう。また、リンチが着想を得る方法が『ビッグ・ボーイ(ファミレス)でたっぷりの砂糖を摂って妄想に耽る』というやり方であったり、禅を習得しているという事実から、彼が『静寂』をとても大切に思っている事がわかります。世間で思われている『暴力』的、『奇異』なイメージは、彼自身ではなく、彼の恐怖する対象なのでしょう。

今回の展覧会の会場では2012年、ロンドンのフリーズ・アート・フェアで開催されたメモリー・マラソン2012のために制作された『Memory Film』という四分程度のショートフィルムが上映されていました。空爆のイメージに眼を覆っているリンチのもとにゴッホの自画像がヴィジョンとして降りてきて、彼が眼を開くという内容です。このショート・ムービーを観ていると、「ネットを使って効率良く情報を得る」みたいなライフスタイルは一見賢く思えるだけじゃないか、と思いました。何か疑問があったら考える前に脊髄反射的にすぐググる、みたいな習慣は悪習かもしれませんし、ネット上での議論はおよそ生産性のあるものではないでしょう。「自分自身を頼りに経験や技術に聞いてみるのではなく、自分以外のなにかに判断を委ねる習慣」、つまり他者に依存しすぎると、限りなく自分自身というものが希薄になっていきます。そういった希薄さはコミュニケーションに支障を来し、デザインすらもありきたりのものにしてしまう気がします。乱暴に言ってしまえば、「誰が、何を作っても関係ない」もので世界が溢れ返って、本来なくてはならないものが見えなくなって、結果として誰も彼も無価値な世界になってしまうという事です。

リンチの描く衝突事故がいかに衝撃的な衝突に見えるか、その非凡さについて先述しました。しかし、彼は不必要に観客を驚かすつもりはないのでしょう。事実、インタビュアーに彼が写真の素材に選んだヌードについて、「題材としてはありきたりではないか」と聞かれた際、リンチは「…やりたいと思ったらやってみるのが一番だ。まわりがどんなふうに受け取るだろうかとか、驚かせてやろうとか、考え始めたら、すでに方向を誤っていると思う」と答えています。

それでは彼の表現の持つ強さ、決して自分自身が希薄になどなっていない彼の表現方法とはなんでしょうか?「世界とは『一皮むくと常に別の世界がある』、見た目通りではない不安な場所である事を受け入れ、その不安に対処するために誰にも頼らず、自分自身を頼りにする事をまずは心掛ける事。自分自身を頼りにする事とは、まずは自分に問いかけてみる事」そんな何かではないか、と私は思います。よく、成功している会社のユニークな一面なんかがTVで紹介されていますが、そういった会社の経営者の方は自然とリンチと同じ事を実践されているのでしょう。そこに至るまでは多くの不安に悩まされ、二度と味わいたくないような挫折や気が遠くなる程の試行錯誤を繰り返されているに相違ありません。その過程を経てユニークさを獲得したのであって、どこか成功している会社の、例えば有名なGoogleのオフィスのユニークなデザインだけを真似てもGoogleと同じ結果は出せないのではないか、と思います。だから、「日本から何故、AppleやGoogleが生まれないのか?」とかそういう記事を読んで日本はもうダメだ、とか思わない方が良いですね。AppleはAppleだからAppleなのであり、GoogleはGoogleだからGoogleで、他の誰もAppleにもGoogleにもビートルズにもメッシにもピカソにもなれないのです。

『暴力』(不安や恐怖など)には『静寂』で対峙する。『静寂』は自分自身の中にあるのだから、むやみやたらと検索したりしないでまずは自分の中に解決法を探す。そこから生まれた答えや表現だけが、現実に力を得る。なぜなら、そういった答えや表現にはそれらが生まれいずる必然があり、貴方自身に最適化されたものなのだから(これはデザインは問題解決のための手段である、とするデザイナーに偏ったものの見方かもしれません)。

※『デヴィッド・リンチ展』は、12月2日に終了しました。

前回のデヴィッド・リンチについての記事はこちら

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2012年11月29日木曜日

『伝えるデザインの力 ポーランドポスター展』:ポスターの力と役割・展覧会と現場にて

伝えるデザインの力 ポーランドポスター展
「ヨコハマ創造都市センター」で開催されている『伝えるデザインの力 ポーランドポスター展』を観てきました。

ポーランドポスター
ポーランドポスターは、ポーランド特有の歴史を背景に独特の洗練を遂げ、世界中のデザイナーに多大な影響を与えています。今回はその作品群を一同に観られる滅多にない展覧会で、海外に出たことのない30点を含む全150点が展示されていました。ユーモラスなもの、インパクトのあるもの、ショッキングなものなど、強く印象に残る作品も多数あります。会場では海外の美術館によくあるようにフラッシュを使わなければ撮影も許可されていました。

ポーランドポスター学校
ポーランドポスターといえば「ポーランドポスター学校」抜きには語れません。ポーランドポスター学校は、“学校” ではなくデザイナー集団の名称で、1955~1965年の10年にわたり活動していました。「ドイツのバウハウス」「スイス派・ニューグラフィックデザイン運動」「ロシア・アヴァンギャルド」と並び立つ、ポーランドのデザイン運動です。

ヤン・レニツァのポスター
ヤン・レニツァのポスター。手前はグラフィックデザイン史には必ずといっていいほど登場するオペラポスターの『ヴォツェック』で、第1回ワルシャワ国際ポスタービエンナーレで金賞を受賞した作品。

ヘンリク・トマシェフスキのポスター
今回の展示の中でも『ポスターが持つ力を』改めて感じたのは、ヘンリク・トマシェフスキの作品です。彼の作品はポーランドポスター学校のメンバーの中でも特異な個性を持つものです。戦後の荒廃した時代にあって、ポーランドのポスターは多くの市民を勇気づけました。とりわけヘンリク・トマシェフスキのような作品はシンプルでありながら温かみが感じられる表現で、多くの市民の暮らしの中に、勇気や希望を提示してみせたのではないかと思います。

併せて開催された、勝井三雄さん・永井一正さん・中川憲造さん・松浦昇さんによるトークショーにも参加しました。その中で、ポーランドポスターの説明、ポーランドと日本のデザイナーとの関わり、ポーランドポスターと現代のポスターの比較、この展覧会を開催するための活動などのお話が議題として上がっています。そして総括として最近の傾向についてもお話しされ「現代ポスターの表現力が弱まっている」、「作家性を持った作家が減ってきている」 、「グローバル化は必要だけど平準化してきている」などといった問題提起をされていました。

この時代と現代の社会情勢や背景はあまりにも違い過ぎるため比較するのは難しいのですが、クライアントの意向やマーケティングデータとデザインが切り離せなくなった今、ポスターの原点とされるポーランドポスターを見直し、ポスターの在り方について考えてみる事は有効だと思います。そこには見過ごされてしまった大切なものや今こそ有効な方向性などを見出す可能性があるように考えられるからです。

ポーランドポスター展のポスター
近隣のレストランなどに貼るための小サイズのポスター。展覧会の図録のカバーとしても使用されており、購入者が3種類の中から好きな絵柄を選べるようになっています。

同展覧会のデザイン・ディレクターである中川憲造さんは、ポスターが似合う街で「この展覧会をどうデザインしていくか」ということを考え、ポスターの役割を見直されたそうです。また、そのポスターも伝えるという機能を超えて楽しさや明るさが伝わるように、使用目的に合わせてNDCグラフィックス勝井三雄さん、永井一正さんが制作されたものなど数種類用意されてありました。デザイン関係の方だけでなく、近隣の方にポスターを見て会場に足を運んでもらえるように、そのための様々な工夫がされているようです。そのようなポスターは展覧会の会場だけでなく、『街の中に貼られてこそステージを得た』と言えるでしょう。会場への行き帰りにそれらポスターに注意を向けてみるのは、鑑賞を越えて使用価値・体験となり、より深い意味を感じ取れる機会となるでしょうね。

クレムフカ(別名:法王のケーキ)
期間中は会場一階のカフェで、ポーランドの伝統的なお菓子(ポンチキとクレムフカ)も販売されていました。写真はクリームをパイ生地にはさんだ「クレムフカ」で、別名「法王のケーキ」と呼ばれているものです。

「ポーランドポスター展」は、12/3日(月)まで。

2012年11月21日水曜日

『横尾忠則 初のブックデザイン展』:横尾忠則の仕事・オーラやイメージと呼ばれるもの

ギンザ・グラフィック・ギャラリー『横尾忠則 初のブックデザイン展』
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されている「横尾忠則 初のブックデザイン展」を観てきました。

薄暗い会場入り口は強烈な蛍光ピンクで彩られ、地下スペースはここがギンザ・グラフィック・ギャラリーとは思えないようなアングラなイメージ。デザインを正確に見るにはもう少し明るさが欲しいところですが、この雰囲気は横尾忠則さんにはとても似合っているように感じました。この雰囲気も横尾さんが作り上げてきた作品であり、実績であり、人によってはオーラやイメージと呼ぶものなのでしょう。

「99.999……パーセント、著者の指名によって本の装丁の依頼が来る」横尾さん曰く、ご自身のブックデザインは「作家とデザイナーの『想像力と想像力のぶつかり合い』」。この展覧会もまた、あたかも「アーティスト:横尾忠則」と「デザイナー:横尾忠則」のぶつかり合いのような、激しいエネルギーと対峙する体験でした。

展示されているそれぞれの作品と、それに添えられたコメントは「なぜ、このデザインに至ったのか、その過程でどのようなことが起こったのか」などドキュメンタリータッチと言っても過言でないような、生々しい手触りを感じさせるものばかりです。とりわけ私の印象に残ったのは大きくディスプレイされていた「ブックデザインを時間と空間の芸術と考えている。だからデザインする時は映画の編集や、または彫刻を創るような気持ちで作業する」という言葉ですね。

草森紳一さんの『江戸のデザイン』の装幀では、資料をご自分で集めたり、編集部からもらったりして、内容は読まずにデザインを進めたそうですが、最も多く手がけている瀬戸内寂聴さんの装幀では、一言も注文がなくても何度もゲラを読み返してデザインにとりかかったそうです。同じ装幀の仕事でもまったく逆のアプローチでデザインを進めているのが興味深いです。

『横尾忠則 初のブックデザイン展』会場

寺山修司さんの『書を捨てよ、町へ出よう』では、カバーをめくるとビートルズの写真が使われていました。そのまま使うと著作権使用料がかかるのでこっそり使ったということでしたが、これはどう考えても横尾さんだから成せる技です。(別会場にはジョン&ヨーコと三人で写した写真もありました。)「こういうユーモアをとても大切にしている」そうですが、普通のデザイナーがこんなことをやってしまったら、ユーモアを通り越してデザイナー生命終了です。

その他にも三島由紀夫さんの装幀を手掛けた時の逸話など(三島さんはアートディレクターの立場で、ラフスケッチまで持って現れ、出来上がったデザインにも平気でやり直しの注文をつけたそうです。)、デザインが完成するまでのやりとりは本当に面白いものでした。とても参考になるものから、横尾さんならでは過ぎてまったく参考にならないものまで、見応えのある作品とコメントが揃っています。

『横尾忠則 初のブックデザイン展』ポスター
同展覧会のポスター。

この展覧会と併せて、近々『横尾忠則 全装幀集』も発売されます。1957年から2012年の作品まで、55年間の装幀が約900点収録されるそうですよ。

「横尾忠則 初のブックデザイン展」は、11/27日(火)まで。

2012年11月11日日曜日

体験>情報:ハーマンミラーポスター展『Then × Ten』

アクシスギャラリーで開催された「ハーマンミラーポスター展『Then x Ten』」を観てきました。

『Then × Ten』というタイトルは、チャールズ&レイ・イームズアレキサンダー・ジラードなどが制作した過去のポスター10点(Then)と、現代のクリエイターが制作したポスター10点(Ten)を意味しています。展示はそれら新旧デザインのポスターと、そのモチーフとなった『アーロンチェアー』『イームズシェルチェア』『イームズラウンジチェア』などが併せて設置してあるという形式です。いずれもプロダクトデザイン史に残るハーマンミラー社の名作ですね。

新・旧のポスターの比較と、ポスターとそのモチーフになった実物の椅子の比較が出来る意味は、展示会を見学から体験のレベルまで、一気に引き上げてしまう工夫とも言えるでしょう。“体験>情報” という現代のマーケティング理論や時代の風潮にもマッチしていると思います。実際、会場では椅子に座る事も撮影も許可されていて、主催者側の自信と制作物の良さを知ってもらうために重ねた “誠実な試行錯誤” を感じました。

『ネルソンマシュマロソファ』田名網敬一
手前のポスターは『ネルソンマシュマロソファ』をモチーフにした田名網敬一さんの作品(2012年)。

『アーロンチェア』カム・タン
『アーロンチェア』と、それをモチーフに制作されたカム・タンのポスター(2012年)。

『テキスタイル&オブジェクト』アレキサンダー・ジラード
奥の壁のポスターは、アレキサンダー・ジラード『テキスタイル&オブジェクト』(1961年)。

『ネルソンココナッツチェア』ジョナサン・ザワダ
『ネルソンココナッツチェア』背面と、それをモチーフに制作されたジョナサン・ザワダのポスター(2012年)。

『イームズプライウッドチェア』エダ・アカルタン
今回私が一番惹かれたポスターは、エダ・アカルタンによる『イームズプライウッドチェア』(2012年)でした。この一枚のポスターで、「プライウッドチェア」の作者であるイームズ夫妻の暮らし、ロサンゼルスにある『イームズ邸』の様子、それらにまつわる色遣いなど、見事に表現されているのです。また、家・オフィス・学校など「どのような環境にも合う家具を作る」という、イームズ夫妻の信念までもが盛り込まれた作品になっていました。

旧作のポスターは有名な作品が多いので知っているものが多かったのですが、新作は未見のものばかりでしたので、それぞれイマジネーションの広がり方が大変に刺激的でした。モチーフとなった実物の椅子は答え合わせのためではなく、イメージソースに触れるためですね。アップルやハーマンミラーといった、会社がデザインを重視するのは売るためだけではなく問題解決のためであり、ユーザーに至上の体験を提供するためです。会場展示を公園の遊具で遊ぶように楽しみながら、デザインのストイックな一面を再確認した大変意味深い体験となりました。

※『Then x Ten』展は、11/7日に終了しました。

2012年9月26日水曜日

「DTPの勉強会 第8回」:カラーマネージメントを始めるためにやっておくべきこと


「DTPの勉強会 第8回」に参加しました。
今回のテーマは「カラーマネージメント」。

スピーカー:島崎肇則さん(@kar_kador
聴き手:やもさん(やもめも
    あかつきさん(あかつき@おばなのDTP稼業録

★内容
「カラーマネージメント ~DTP・製作現場を中心に~」
 1. 環境について
    1-1. 光源と色の見え方
    1-2. 環境の整備
 2. ディスプレイについて
    2-1. ディスプレイの種類
    2-2. 調整の目標値
    2-3. キャリブレーション
 3. プリンタの調整
    3-1. プリンタの種類
    3-2. RGB プリンタの調整
    3-3. CMYK プリンタの調整
 4. データの取り扱い
    4-1. CSのカラー環境設定
    4-2. Photoshop
    4-3. InDesign/Illustrator

カラーマネージメントとは、ディスプレイに表示される色、プリンタに出力した色、印刷した色など、異なるデバイス間の色をできるだけ同じ色に近づけるためのシステムです。今回はこのカラーマネージメントシステムの概念から実際のワークフローについて、すぐにできそうなことからここまでやればほぼ完璧というものまで、幅広く説明されました。

全体で見ると、ざっとこんな感じです。
1. 室内の照明(蛍光灯)の整備
2. 作業スペース・デスク周辺の整備
3. ディスプレイの選び方
4. ディスプレイの調整
5. プリンタの調整
6. アプリケーション(Adobe CS)の設定とデータの取り扱い

1~3は比較的取り入れやすいものですが、4~6はそれ相応の設備とテクニックが必要になります。1~3には、例えば下記のようなものがあるので、すぐに出来そうなことから始めてみましょう。

1. 室内の照明(蛍光灯)は、
・高演色性蛍光灯(5000K・昼光色/Ra90以上)を使用する。
・デスクライトにRa90以上を使用するのもOKです。
※K=ケルビンは色温度の単位で、色温度は紙白と同じが理想です。
 蛍光灯の色温度はパッケージなどに記載されています。

2. 作業スペース・デスク周辺の環境は、
・安定した光源を確保する。
・できるだけ無彩色の机や壁にする。
 (色が影響しないように)
・外光を遮るカーテンを使用する。
 (光の入り具合で色が変わるため)
・デスク周りを整理する。

3. ディスプレイの選び方
ディスプレイパネルの種類は、
・IPSパネル(視野角178度・見る角度によって色が変わらない)
・VAパネル
・TNパネル(視野角160度・見る角度によって色が変わる)
がありますが、視野角の広い「IPSパネル」がオススメだそうです。
※パネルの種類は、メーカーのスペック表などに記載されています。

4~6は、各種デバイスの調整とデータの運用になります。
・ディスプレイはキャリブレーションをして、色温度と輝度を
 調整し、黄味と青味を紙白のターゲットに近づける。
・ディスプレイとプリンタのプロファイルを正しく設定し適用する。
・データのプロファイルを正しく運用する。
など、正しく調整するための知識とテクニックが必要です。

デバイスの調整で大切なことは「トータルバランス」
1点豪華主義でいくら高価な良いディスプレイを買ったとしても、キャリブレーションを行わなければ意味がない、とのこと。3~6はハードルが高いですが、導入する場合はセットで検討した方がよさそうです。

ここまで学んで、私はディスプレイと印刷の色の違いについては、普段あまりストレスを感じていいないことに気づきました。おそらく今までの経験から、印刷の色味を予想しながら作業することには慣れていたからでしょう。また、PDFファイルでの校正が増えたため、最近では自分で確認する以外にプリンタで出力する機会はほとんどなくなったことも大きいです。

それでも、厳密な色調整が必要なデータを扱う場合には、こういった設定は必要不可欠です。ここまでしっかりとした設定を行うことによって、かなり近い色味を表現できる作業環境は仕事の精度を高めてくれます。案件や予算などと照らし合わせて “どこまでやるか” という今後の参考にもなりました。

今回の勉強会に参加して、カラーマネージメントに関して断片的だった知識の全体像を把握できたことが一番の収穫です。先ずはデスク周りの小さなことから始めてみたいですね。

カラーマネージメント:出力サンプル
写真は、会場で配布された「RGBプリンタ」と「CMYKプリンタ」の出力サンプルです。それぞれ上段が「ドライバデフォルト設定」、下段が「ユーザ作成プロファイル適用」の出力です。プロファイルが適用されたものは、かなり忠実に色味が再現されているのが解ります。

2012年8月5日日曜日

『おおかみこどもの雨と雪』は、あまりに真っ当な傑作エンターテインメント作品だった。


話題性では他作品に譲るものの、作品評価がずば抜けて高い『おおかみこどもの雨と雪』。期待以上の映画でした。予想外だったのは、いかにもファミリー向け映画のような可愛らしいヴィジュアル・イメージに反して、大人向けの文芸作品だったこと。『女の一生』というフランスの小説がありますが、『おおかみこどもの雨と雪』はそんな言葉がぴったりとくるような作品でした。

普通、物語というのは主人公の『成長』を描くものです。『成長』は、主人公が絶望的にわかり合えそうにない誰かと出会ったり、信じて疑わなかった常識が覆されるような世界に足を踏み入れる事で促されます。主人公を成長させる『わかりあえない存在』のことを批評では『他者』と呼んでいます。そのような自分と他者のギャップを描くこと、それが文芸作品の主たるテーマです。

それではどうして『おおかみこどもの雨と雪』は文芸作品なのでしょうか? ききわけなく泣き喚いたりする幼い子供を真摯に育て上げることは「『他者』と向き合う」ということで、本作が「そんな微笑ましくも過酷な暮らしが、主人公・花を線の細い少女からたくましい母親へと成長させてゆく」物語だからです。ただし、作品には非常に幅広く、様々なテーマが込められています。これだけ豊かな物語ですから、前述のように大雑把に物語の説明をすると大切なもののほとんどがこぼれ落ちてしまいます。また、ネタバレになっては申し訳ないので、内容についてはこの程度にとどめておきましょう。

大人向け、文芸作品などと書いてしまったので、高尚で難解なイメージに思われるかもしれないのですが、ワンシーンも退屈させない、濃密なエンターテインメントに仕上がっています。小難しく退屈な映画にしない為に、監督は元気いっぱいでやんちゃな子供たち(『他者』)をおおかみという野生動物に置き換えて、素敵なファンタジーに仕上げました。母と子の物語をファンタジーへとデザインする。これは “企画のデザイン力” ですね。デザインには『問題解決の手段』という役割がありますから、ここはデザインという言葉で正しいでしょう。
 ・過去の名作をリメイク = 焼き直し
 ・ハードルの高い文芸作品でお客さんを呼ぶ為に
  ファンタジーにする = デザイン
という事です。

登場人物のスタイリングに、スタイリストの伊賀大介さんが参加されている事も話題になっていますが、これはお洒落な映画を作るとか、キャッチーを狙うというよりも、演出効果を狙っているのでしょう。都会で着るような可愛らしいカットソーを着て畑仕事をやらせて、畑仕事に不慣れな感じを出してみたり。正しく映画のスタイリングだと感じました。(映画において『正しく』とは、台詞で語らないという事です)

思い返してみれば、細田守監督の最近の作品、『時をかける少女』、『サマーウォーズ』のポスターは全て、お客さんを呼べるデザインになっていますよね。なにか楽しいものが観られるんじゃないか、特別な体験になるんじゃないかという期待を掻き立てるような魅力的なヴィジュアルです。『おおかみこどもの雨と雪』のヴィジュアルもまた、例外ではありません。

映画本編が終わったら、「そもそも主人公の花が物語の最初、どんな女の子だったのか」を思い出してみてください。あまりに都合の良い、それ故に心の底からは共感出来ないハッピーエンドの物語では絶対に味わえない、ほろ苦いけどリアルなハッピーエンドが強くあなたの心を揺さぶってくるはずです。

2012年7月23日月曜日

「INDD 2012 Tokyo(InDesignユーザーの祭典)」:PDF出力は本当に使えるのか?


7月20日に「INDD 2012 Tokyo(InDesignユーザーの祭典)」が開催されました。ユーザー(有志の実行委員)主催のこのイベントは、大規模でありながら、今までになかったユーザー目線での工夫が凝らされたものでした。今回登壇されたスピーカーの方々は、書籍の出版もされていたりその分野に関しては特に見識のある方ばかりです。「InDesignトラック」と「電子書籍トラック」の二つの会場に分かれての開催でしたが、私は「InDesignトラック」に参加しました。

★INDD 2012 Tokyo(InDesignトラック)※敬称略
A-1:InDesignのスタイル機能を使い倒す
   森 裕司(InDesignの勉強部屋
A-2:美しい文字組みについて考える
   (InDesign組版教室 出張版)
   紺野 慎一(凸版印刷株式会社)
   大石 十三夫(なんでやねんDTP
   宮地 知(大阪DTPの勉強部屋
A-3:InDesign作業の時短に欠かせないスクリプトを活用
   [DTPの勉強会(東京)出張版]
   丸山 邦朋(ものかの
A-4:InDesign新機能(CS6/CS5.5/CS5)
   大橋 幸二(DTPの壺ろぐ
   大倉 壽子(アドビ全製品を網羅しているスペシャリスト)
A-5:InDesignの出力に関する理想と現実
   (PDF出力、本当に使えるの?)
   笹川 純一(株式会社吉田印刷所)
   柴田 勉(株式会社ノア・デジタル
A-6:全員参加型!? 私のアナタの欲しい機能
   小林 功二(株式会社マイナビ)
   あかね(印刷会社勤務・ちくちく日記
   岩本 崇(アドビ システムズ株式会社)

すべてのセッションで共通しているのは、クオリティーが求められるのは当然として「効率」だと感じました。以前にも増してスピードが求められている今、InDesignが持つ機能を巧く使いこなし、「早急に、なおかつ完璧に出力し納品まで行うこと」は不可欠です。

参考になるポイントは人それぞれだと思いますが、私が最も参考になったのは、セッションA-5「InDesignの出力に関する理想と現実(PDF出力、本当に使えるの?)」でした。
「PDF出力」は、印刷所内での最小限の行程で印刷まで行うことができる、言わば人の手を介さない究極の入稿システムです。
ただ、PDF出力用の完璧なデータ制作が条件になりますので、デザイナーやDTPオペレーターのその為の理解は必要最低の条件となります。また、印刷会社の体制整備も必要ですので、すべての条件面においてまだまだ一般的ではないという感も否めませんが、今後増えていくのではないかと思っています。
今回は、PDF書き出しプリセット(PDF/X-1a、PDF/X-3、PDF/X-4)の差異や、透明とオーバープリントの扱いなどについても学びました。今までそうするものだと思っていたことが「なぜそうしなければならないか」という理解に変わるのは楽しいものです。

今回紹介された機能や方法ををすべて使いこなせたら最強ですが、それぞれの仕事や環境に合わせて、少しづつでも上手く取り入れていきたいですね。

2012年7月17日火曜日

「デヴィッド・リンチ展 “David Lynch”」:アートとデザインの差異について


デヴィッド・リンチ展 “David Lynch”
映画であれ、絵画であれ、写真であれ、デヴィッド・リンチの作品について語る事は無意味です。自身の作品の持つ不可解さ故、「あれはなんだったんですか?」的なインタビューを受ける度に、本人が言っているのだから間違いは無いでしょう。

「批評や答え合わせは無意味だ」というのは一見、突き放したような言葉ですが、実はこの言葉には続きがあります。リンチは「作品が不可解であれば、不可解であるという印象を受けた、自分自身の印象をもっと尊重してください」という事をインタビューで繰り返し答えているのです。「あなたにとって何よりも大切なのは、あなた自身ですよ」という事ですね。

自分とは利害関係が一致しない、立場が違う相手を尊重し、存在を認める事、他者を想定する事は、民主主義の持つ或る一面だと思います。「あなたがイレイザー・ヘッドを観てどう感じようと、作者であるリンチがこう言っているのだから、あなたの解釈は間違っている」というのではなく、「作者である私の言葉よりも、作品に触れてあなた自身に起こった感情や印象をなによりも尊重してください」という事ですね。

答え合わせではなく、自分自身を尊重するとどういう良い事があるのでしょうか? 例えば、ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を頑張って読破してはみたものの、本を閉じた時に感じた感想が「さっぱりわからなかった」というものだったとします。それではその読書に費やした時間は無駄だったのでしょうか? 私はそうは思いません。一見、『わからかった』という経験の積み重ねが、知性の厚みを作るような気がします。リンチ作品に関しても、作品それ自体から受けた印象が財産であり、技法云々はその他の些末なトピックに過ぎません。

クライアントがデザインに期待する役割には、問題解決の領域が多分に重なっています。チャールズ・イームズのように「デザインとは、問題解決の手段だ」と言い切っている人もいます。
例えば、日本語を解さない外国の方が日本で交通事故に遭わないように交通標識や信号機の表示をデザインする事。例えば、多機能化して操作が複雑になりすぎた携帯電話を使いやすくする為に、物理的なボタンは一つに絞り込んだiPhone。
映画のような芸術作品とデザインという仕事の差異はここにあり、逆に両者に通底するのは『ものを伝えようとする意志』でしょう。デザインで情報をより多くの人に、的確に伝える為には他人と自分の解釈の違いに寛容になる事が必要なんでしょうね。「私はこう感じたけど、なるほど、あなたはそう感じたのですか」という認識を幅広く持つ事の大切さ。そんな事を再確認した展覧会でした。

最後に、もう一つ。
デヴィッド・リンチはどうして『ツイン・ピークス』はあんなにヒットしたのでしょう? というインタビューにこう応えています。

「わからない。作品に起こる事はコントロール出来ない」


この「デヴィッド・リンチからのメッセージ」も作品のひとつです。


「デヴィッド・リンチ展 “David Lynch”」は、「8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery」で、7月23日(月)まで開催されています。

2012年7月5日木曜日

「DTPの勉強会 第7回」:Adobe Illustrator アピアランス


「DTPの勉強会 第7回」に参加してきました。
今回のテーマは「イラストレーターアピアランス活用術」。

メインセッション - 1
「DTPを少しでもラクにする、アピアランスのコツ。」
 スピーカー:にしのさん
○内容:少しでもラクする為に考えた、アピアランス(グラフィックスタイル)活用を紹介。
メインセッション - 2
「DTPで役立つアピアランスイラスト活用術」
 スピーカー:hamkoさん( ham factory
○内容:イラストを制作する場合、どのようにアピアランスが使われているかを紹介。また、DTPでも役立ちそうなちょっとしたイラストTIPSも紹介。
サブセッション - 1
「カラーマネージメントことはじめ」スピーカー:島崎肇則さん
○内容:カラーマネージメントの初歩の初歩として、「モニタとプリンタの色をなるべく同じように見えるする」ために、ディスプレイプロファイルの概要と運用の仕方、プリンタプロファイル等についての解説。
サブセッション - 2
「カワココ再び」スピーカー:カワココさん( イラレラボ )
○内容:大日本スクリーンの出力の手引きWebで、出力のテストに使用されたクジャクのイラストの制作方法について、Illustrator CS6から搭載された線グラデーションの使い方をメインに解説。
ショートセッション「CS6のあれこれそれ」

Adobe「Illustrator」には「アピアランス」という便利な機能があります。(「アピアランス」の基本機能については、こちらこちらを参考にしてください。)この会に参加するまで「アピアランス」というのは、主に文字にフチを付けたり枠を装飾するためのものだと認識していました。今回の勉強会で「アピアランス(グラフィックスタイル)」を活用し、修正がしやすいデータ制作を追求されているにしのさんと、ただの丸や多角形からビスケット・花などのイラストを制作するhamkoさんのデータ制作を学べた事は、大きな収穫でした。直前まで価格データが決定しないチラシなど、スピードを求められる現場では、巧く活用できれば有効な機能です。

ただ気をつけなければならないのは、「アピアランス」は多用し過ぎたりすると出力サイドに負荷がかかります。データが思い通りに出力されなかったり、出力時に時間がかかってしまったり、という危険が伴うこともあるそうです。この辺りのバランスを掴むには、経験とコミュニケーションが大切ですね。間違いのない仕事を進めていく為には、制作・出力の両サイドの意見を尊重する事も大切です。幸運な事にこの勉強会にはその両者の方がいらっしゃるので、双方の意見が聞けるという大変貴重なものでした。

私の場合、クライアントさんでデータを取りまとめて印刷会社さんへ入稿することが多かったり、下位バージョンでの入稿を求められたりすることがあるので、途中問題が発生しないようになるべく安全なデータ制作を心がけています。しかしそうした安全なデータだと、素早く修正する事ができないことがあります。
・新しく追加された機能を巧く取り入れつつ、
 全体の行程に気を配ってデータ制作を行っていく事の大切さ。
・そして「アピアランス(グラフィックスタイル)」が
 印刷用データでもかなり使えるという事。
以上の二点を今回は学びました。
今後の仕事に巧く活用していきたいと思います。

DTPの勉強会 【DTPの勉強会第7回】

2012年5月23日水曜日

「d47MUSEUM」の『NIPPON DESIGN TRAVEL – 47都道府県のデザイン旅行』多様性が育む豊かさについて


渋谷ヒカリエ8階「8/(ハチ)」
オープンの混雑が落ち着いた頃、渋谷ヒカリエ8階「8/(ハチ)」にある
・「d47MUSEUM」
・「d47 design travel store」
・「d47食堂」
に行ってきました。

ここは「D&DEPARTMENT」の新プロジェクトです。以前よりナガオカケンメイさんの「D&DEPARTMENT PROJECT」の活動に関心があったので、今回の「d47」のオープンをとても楽しみにしていました。

「d47MUSEUM」ではオープニングエキシビションの『NIPPON DESIGN TRAVEL – 47都道府県のデザイン旅行』展を鑑賞しました。こちらは47の展示台があり「47都道府県の情報を知る事ができる」ギャラリーです。ここでは「観光・食事・お茶・買物・宿泊・人」という6つの視点によって選ばれたものが展示されていました。

「d47MUSEUM」『NIPPON DESIGN TRAVEL – 47都道府県のデザイン旅行』
ナガオカさんと「D&DEPARTMENT」のフィルターを通して選ばれたものは、伝統工芸的なものだけでなく、新しいプロジェクトや取り組みの紹介もあり、この取り合わせ自体が “手術台の上のミシンとこうもり傘の美しい出会い” 的な刺激であり、かと言ってそちら方向だけに偏ったものにはしない、絶妙なバランス感覚です。思わず手に取りたくなるようなものも多くありました。(※会場全体の写真撮影はOKでした。)

ナガオカさんは「d47」オープンにあたって、
・「東京に住んで、地方の仕事なんて絶対に出来る訳が無い」
・「今度は、東京が地方からクリエイションを学ぶ番」
と言われていて、その言葉がとても印象に残っています。

実際、ナガオカさんは日本中のあちこちに足を運んで、作り手やモノ、サービスに出会い、ご自分で確認されたものを選びとっていらっしゃいますが、こういう「確かさ」は、昨今の「やがて情報は無料になるが、体験にはお金を払う」というイメージに微妙に通じている印象、「腑に落ちる裏付け」のように私は感じました。(※誤解のないように、二つの言葉にまつわる全文は、ナガオカケンメイさんの4月29日のFacebookでご確認ください。)

「d47 design travel store」では、展示されていたものを実際に買うことができるショップが併設されています。そこにあるものを手に取って現地の風景に想いを馳せる……そんな豊かな想像体験が意外と楽しい。高価なもの・安くても良質な食材など各種ありましたが、暮らしを豊かにするのは、「持ち物の数や価格ではなく、こういう価値観に束ねられた多様性」かもしれません。「選択出来る」はそれ自体、「自由」だと思うのです。

「d47食堂」では、大阪の旬野菜のだし煮込み定食をいただきました。日本各地から集められた陶器・浄法寺の漆腕と、素材そのものを活かしたお料理の組み合わせ。「絶妙なマッチングって発見だな」と、「奇をてらった組み合わせだけが刺激ではないんだな」と、再確認してみたり。

「d47食堂」旬野菜のだし煮込み定食
「旬野菜のだし煮込み定食」1,500円。大阪文化のお出汁で
煮込んだ旬野菜と、牛すじの土手焼と泉州水なすの小鉢。

イギリスのビートルズやローリング・ストーンズの誕生に、ブルースというアメリカの古いブラック・ミュージックが大きく貢献しています。「何故、ブルース発祥のアメリカではなく、イギリスからこのような新しいムーブメントが発生したのか」とインタビュアーに尋ねられたシカゴ・ブルースの大御所、マディ・ウォーターズは「当時のアメリカの音楽シーンは、家に沢山食べ物があるのに裏庭で泣いている子供のようだった」と応えています。

「日本全国、その地に特有の豊かさがあるのだから、
“裏庭で泣いている子供” になってはいけない」

そんなことを、マディ・ウォーターズの言葉と共に各県の展示やショップを観ながら思いました。

地域のデザインを通して、もう一度日本を見つめ直す機会となる『NIPPON DESIGN TRAVEL – 47都道府県のデザイン旅行』展は、5月28日(月)まで開催されています。

●d47MUSEUM
●d47 design travel store
●d47食堂
●D&DEPARTMENT

2012年5月2日水曜日

『原弘と東京国立近代美術館 デザインワークを通して見えてくるもの』鑑賞。


原弘と東京国立近代美術館 デザインワークを通して見えてくるもの
東京国立近代美術館本館 ギャラリー4にて、「ジャクソン・ポロック展」と同時開催中の『原弘と東京国立近代美術館  デザインワークを通して見えてくるもの』を観てきました。

原弘さんは、グラフィックデザインの第一人者としてポスターや装幀等で、長年に渡り活躍されてきた方です。
国立近代美術館のポスター・招待状・展覧会のカタログ等は、1952年~1975年までの23年間担当されていました。

原さんは「デザインとは無名性の行為」を持論とし、「自分のポスターを作るのではなくて、国立近代美術館のポスターを作るのだ」という気持ちで、この仕事に取り組んでいたそうです。私もグラフィックデザインは、裏方の役割だと思っています。

原さんのデザインは、明晰で美しい。だからこそ、の存在感があるデザインが多いように感じました。

今回の展覧会は、同館で保管されている、ポスターや書籍に加え、版下や印刷の指定紙等、普段は観ることのできない貴重な展示もありました。完成したポスターと見比べてみると、指定紙と添えられた色見本から「どのように仕上がったのか」がわかり、とても興味深いです。

『原弘と東京国立近代美術館 デザインワークを通して見えてくるもの』は、5月6日(日)まで。

2012年5月1日火曜日

『生誕100年 ジャクソン・ポロック』展を鑑賞。


生誕100年 ジャクソン・ポロック
東京国立近代美術館本館で開催されている
『生誕100年 ジャクソン・ポロック』展を観てきました。
今回が、ポロックの日本初となる回顧展です。

ポロックといえば、抽象表現主義の代表的な画家で
流動性の塗料を画面に流し込むポーリング(pouring)の
技法を使用し、中心、地、図、の区別もない、
オールオーバー(allover)な構成で制作していました。

彼のポーリングは、
・ネイティブアメリカンの砂絵
・ダビッド・アルファロ・シケイロスの実験工房
・シュルレアリスムのオートマティスム(自動筆記)
という主に3つの要素で成立しています。

今回の展覧会は、彼の“生涯”と“作品”を感じることができる
滅多に観ることのできない充実の内容になっていました。
ポーリングの作品をはじめ、各国から集められた作品群、
展示の目玉である『インディアンレッドの地の壁画』は、
観客を圧倒します。

ポロックが美術を学び始めてから
44歳で亡くなるまで、その間わずか29年でした。
その上、アルコール依存症や精神分析の治療を受けていたり
描けない時期もあったりで、創作期間は長くはありません。

あらゆるプレッシャーや、アルコール依存症の再発等で
様々な手法を模索していた時期の作品を観ると、
そのすべてと凝縮された人生が伝わってくるようで
時に息苦しさを覚えるほどです。

重要な項目を年表にしてみました。
★「ジャクソン・ポロック」簡略年表
1912年  米国ワイオミング州コディ生まれる。
1927年  この頃飲酒を始める。
1928年  美術の基礎を学び始める。
1930年  NYに移り、
     「アート・スチューデンツ・リーグ」で学ぶ。
1933年  ディエゴ・リベラがNYで壁画制作する姿を観る。
1937年  精神科でアルコール依存症の治療を受け始める。
1942年~ ポーリングの技法を用い始める。
1944年  初の美術館(MoMA)からの買い上げ。
1954年~ ほとんど制作しなくなる(できなくなる)。
1955年  再び精神分析治療を始める。
1956年  8月11日、飲酒運転で交通事故死。享年44歳。

美術関連の年表に「この頃飲酒を始める」とあるのは、
彼の創作に、お酒の影響は切っても切れないものなの
だからでしょう。

ジャクソン・ポロックのアトリエ床再現ジャクソン・ポロックのアトリエ再現
展示会場には、ポロックのアトリエの一部が
再現されていました。
もちろん複製ですが、写真に撮るとちょっと本物っぽい!?
(※こちらは、撮影OKでした。)

ジャクソン・ポロックが使用していた塗料
そしてポロックが使用していた塗料。左から、
・デュポン社のデュコ(ラッカー)、
・デヴォー&レイノルズ社のエナメル塗料、
・ピッツバーグ社のエナメル塗料、
・ピッツバーグ社のアルミニウム塗料、
・デヴォー&レイノルズ社の塗料(種類不明)

『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』は、
5月6日(日)まで開催されています。