2015年6月2日火曜日

『スイスデザイン展』:デザインが機能するために、社会とデザインの関係について考えてみる。


スイスデザイン・展覧会・ポスター

117日から329日まで、東京オペラシティアートギャラリーで開催されていた『スイスデザイン展』に行ってきました。
展覧会からしばらく経ちましたが、鑑賞中や会期後に考えた事等のメモです。

スイスデザイン展・会場

私は「スイスデザイン」に注目していたので、今までにも竹尾ポスターコレクションや多摩美術大学の展覧会など、多数観てきました。グラフィックデザインとタイポグラフィーにおける「スイススタイル」のクオリティーには目を見張るものがあります。大胆な構成や配色等、いつ観ても新たな視座をもたらしてくれるため、私は「スイススタイル」をことあるごとに見直してきたような気がします。

現在のデザインにも多大な影響を与えた「スイスデザイン」の重要度を鑑みると、今までこういった展覧会がなかったことが不思議ですが、例えば20年前と比較しても昨今、デザインの有用性に対する理解は深まっていると感じます。
そういった社会変化も背景にあるのかもしれませんが、ようやくグラフィックのみならずプロダクト、ファッション、インダストリアル、建築等、多領域を横断する形で展覧会が催されたのは実に有意義なことだと思います。
また、今回の展覧会は日本とスイスの国交樹立150年に合わせての開催となっており、日本とスイスの関わりや共通点なども紹介されている、大変興味深いものです。
今までグラフィックデザインを主に観ていましたが、改めて「スイスデザイン」の全体像を俯瞰できたこと、そして日本との関わりを知ることで、「スイスデザイン」という概念の輪郭を取れた事は大きな収穫でした。

スイスクロスをモチーフにしたUSMハラー
『スイスクロスをモチーフにしたUSMハラー』
USMモジュラーファニチャー
2014年 スチール USMモジュラーファニチャー 蔵

この展覧会で印象に残ったのは、会場に多数展示されていた「スイスクロス」(国旗)の扱い方です。
スイスを代表する企業「スイスエア」のイメージはまさにその典型で、国旗を使ったロゴや機体など、ブランディングデザインとしても優れたものだと言えます。また「スイスクロス」のデザインをはじめ、パスポートや紙幣などのスイスという国を象徴するデザインは、デザインと国民のアイデンティティが分かちがたい関係であることの証明のようにも思えます。つまり、スイスブランドが確固たるものになっているのだと感じました。

スイスクロスは交通機関や企業だけでなく、販売用の製品などにも実に幅広く使用されています。そのどれもが素晴らしいもので、デザインモチーフとしてのスイス国旗、その先にある国と個人の在り方について、色々と考えさせられました。
例えば、スイス(スイス国旗)は購入したり身に着けたりするのに「恥ずかしいもの」ではなく、「恥ずかしいもの」ではないのはそこで暮らす人々が個人として積極的に共同体に関わっているから、でしょう。
その辺りの意識の在り方についてより掘り下げるには歴史に学ぶ必要がありますが、「スイスクロス」がスイス社会で広く使われている理由と、そのような国で生まれて、育まれた「スイスデザイン」という概念について深く知ることは有意義なことだと思います。
何故なら、私達の暮らす実社会の中でデザインの果たすべき仕事について考え続ける事を止めてしてしまうと、デザインそれ自体が「いらないもの」になってしまうからです。

ヒトが二人以上いれば共同体である、と仮定してみましょう。
その共同体の中で色々なものが古くなって消えていったり、新しいものが生まれてくるのだとします。
スイスデザインが何年も前の製品でもただ単に古いといった印象を受けないのは、生まれては消えていく有象無象の類のものではなく、そのような新陳代謝が行われる器となっている共同体そのものと密接に関係するものだから、かもしれません。

どのような背景で
 このような優れたデザインの数々が生まれたのか」

長年にわたり世界中でリスペクトされ続けてきた「スイスデザイン」に触れたことは、「社会」の中で「デザイン」がどのようにあるべきか、について多くを考えさせてくれるきっかけになりました。

スイスデザイン・展覧会・図録
今回の展覧会図録は、資料としても大変貴重なものです。


スイスデザイン・型紙インスタレーション
『ルツェルン応用化学芸術大学による型紙インスタレーションプロジェクト』。 発案はハンスユルグ・ブーフマイヤー教授で、同研究室は日本の「型紙」に着目しています。日本の型紙に発想を得た全く新しい装飾的意匠で、フレキシブルに使用できるオブジェとして、産学協同で完成されました。



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