2013年12月18日水曜日

「ソニー」の93言語対応フォント開発プロジェクト『SST Type Project』:企業イメージに不可欠な「デザイン」と変化する「デザイン」の役割


ソニー「SST」フォント開発・プロジェクト・タイプ・デザイン1
『SST Type Project』特設ウェブサイト

長期間にわたる開発プロジェクトを経て、「ソニー」のオリジナルフォント『SSTフォント』が発表されました。このフォントを初めて見た時、私はデザインクオリティーの高さと、93言語に対応したことに驚かされました。特設サイトでは、開発プロジェクト『SST Type Project』の詳細が明らかになっています。

ウェブサイトには、
商品の小型化が進み、ハードウェアに記載される文字が小さくなる一方で、スマートフォンやタブレットなどディスプレイでの体験が主役に変わりつつあります。こうしたハードウェア上の表記はもちろんコンテンツを快適に楽しむ上で、文字の読みやすさはとても重要です。また、「フォント(書体)」の印象は商品のイメージだけでなく体験そのものに影響を与える大切なデザイン要素。ソニーが提供する商品そのものの価値や体験の質をさらに高めるためには、フォントのデザインにこだわる必要があると考えました。また、ソニー独自のフォントを開発することで、広告やwebサイトだけでなく、店頭でのプロモーション、商品、サービス、取扱説明書に至るまで、ユーザーとのあらゆるタッチポイントでソニーならではの共通の感動体験を提供できるはずです。こうして、ソニー全体で使うためのコーポレートフォントの開発プロジェクトが始動しました。
とあります。

そして実際にフォントをつくるにあたり「ソニー」が目指したのは、「硬質感と可読性の両立」で、「シャープさを残しながらも可読性の高い書体」です。
その結果として、「Helveticaの硬質感」「Frutigerの可読性」という2つのフォントのエッセンスを抽出し、「Frutigerの高い可読性」「Helveticaのようなシャープな骨格」という相反する要素を融合させたそうです。(ちなみに「Helvetica」は、今までソニーが多く使用してきたフォントで、「Frutiger」は、標識用に開発され、高い可読性を持つフォントです。)

今回のフォント開発プロジェクトでの最大のポイントは、93カ国語に対応したオリジナルフォント『SST』をつくることにより、「ユーザー体験そのものをデザインすること」です。『SSTフォント』の完成により、世界中どこでも、どのようなデバイスでも、同一のイメージとメッセージ、ユーザー体験を受け取ることが可能となりました。また、ボーダーレスになったことで、国や言語に左右されない一貫したブランド構築ができることは、このプロジェクト最大のメリットであると言えるでしょう。


Sony Japan | Sony Design | Design Projects | SST Type Project
『Sony Design × Monotype』
福原寛重さん(ソニー株式会社クリエイティブセンター・チーフアートディレクター)と小林章さん(ドイツ モノタイプ社〈前ライノタイプ社〉・タイプディレクター)のインタビュー

「ソニー」サイト内のコンテンツ『デザイン』ページでは、早速このオリジナルフォント『SST』を使ったページが美しくデザインされていました。「クラウドフォント」として使用することで、指定した『SST』が、画像ではなくテキストとして表示されています。(クラウドフォントとは、インターネットを介してフォントを配信し、ウェブブラウザで表示させる仕組みのことです。閲覧する側のデバイスに指定されたフォントが搭載されていなくても、制作側で指定したフォントが表示されるものです。)

今回の「93言語対応のフォントをゼロからつくる『SST Type Project』」が遂行されたことにあたり、どれだけ膨大な時間と手間がかかっているのかは想像に難くなく、ソニーの底力を見せつけられたような思いがしました。主要なデバイスの変化は、今回のフォント開発にとって、大きなきっかけの一つであることは疑いようはありません。

しかし、もう一歩踏み込んでみると、ユーザー体験の優先順位がアップルの躍進以後飛躍的に高まったことや、ユーザー体験そのものが、イメージ構築に大きく関与していることが再発見されているからでしょう。

ユーザー体験が注目されるようになったのは、アップル以前にアマゾンのレビューなどのインターネットがもたらした「クチコミ文化」ではないか、と思います。「その筋の大家」ではなく、一般ユーザーが実際に購買してみての感想が、ソーシャルメディア時代よりもはるか以前に重視されるようになり、企業も宣伝だけではなく、サービスや商品の品質を上げることなどに注力するようになりました。

デザインは確かに企業イメージに大きく影響します。しかし、以前、考えられていた見た目のイメージ作りとは違ったカタチ、問題解決や使用感といった領域において、デザインは企業イメージに影響を及ぼしていくことになりそうです。そしてデザインの失敗は、コミュニケーションの失敗と同義となる時代になっているのかもしれません。

こう考えていくと何故、ソニーが大変な労力を払ってオリジナルフォントを開発しなければならなかったのか、が見えてくると思います。今後この『SSTフォント』が、世界中のソニー製品や広告等でどのようにデザインし表現されるのか、これからのソニーの展開を楽しみに注目していきたいと思います。


グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM





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2013年12月11日水曜日

ジェイアール東日本都市開発『2k540 AKI-OKA ARTISAN』:「結ぶ」ための企画と「つなぐ」デザイン


「2k540 AKI-OKA ARTISAN」ロゴデザイン

『2k540 AKI-OKA ARTISAN(ニーケーゴーヨンマル アキ・オカ アルチザン)は、JR秋葉原~御徒町駅感の高架下にある「ジェイアール東日本都市開発」が運営している商業施設です。2010年12月10日にオープンしてから、今年で3年を迎えました。

この商業施設が面白いのは、従来の商業施設とは異なり、「ものづくり」を行うクリエイターが、工房と一体となった店舗を構え、全く新しい形で運営されている点です。また、決して立地が良いとは言い難い「高架下」という場所を活かすことにより、独特の雰囲気を持った趣のある空間にリノベーションされていました。2011年には、施設が「グッドデザイン賞」も受賞しています。

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」建築デザイン

ウェブサイトには、
かつて御徒町周辺は、江戸の文化を伝える伝統工芸職人の街でした。現在もジュエリーや皮製品を扱うお店が数多くあり、職人の街の印象を残しています。けれども昨今、時代とともに、変化する人々の感性やセンスが望むものに対して、満足な答えを用意出来ていなかったのではないでしょうか。
このところ、東京の東エリアがおもしろくなってきています。ギャラリー、工房、カフェ、ショップなど、角度の高いセンスとクオリティをもった人々が東エリアに移りはじめているのです。この流れを背景に「ものづくり」をテーマとした施設が、御徒町エリアに登場します。工房とショップがひとつになったスタイル、ここでしか買えない商品、ものづくりの体験が出来るワークショップなど、さまざまな個性あふれるお店が集まります。
単にモノを売るだけではなく、生活スタイルの提案ができるお店です。
御徒町エリアは、「職人の街」から「2k540 AKI-OKA ARTISAN」として生まれ変わります。
とあります。

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」ショップデザイン
日本百貨店

コンセプトは、
・新たな人の流れをつくる
・「結ぶ=Link」をテーマに有効利用
・人とヒトを「結ぶ」…> 社会貢献活動の拠点となる
・過去と現在を「結ぶ」…> 高架下の新たなブランド価値を創出

ということで、「ものづくり」を中心とした「ヒト」と「場所」について、大切に考えられた施設になっていました。「ものづくり」をベースにした様々な広がりと可能性も感じられます。

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」カフェデザイン
やなか珈琲店

近年、東京の東エリアには『2k540 AKI-OKA ARTISAN』をはじめ、クリエイターが集うギャラリーやショップが多数オープンしています。どこもオリジナリティある店舗づくりが施されていて、「ここでしか買えない商品」や、「ここでしかできない体験」は、価値あるものになってきました。

大量生産ではない「ものづくり」は、お金も時間もかかるものですが、似たようなショップやチェーン店が増えている今、「この人から買いたい」や「この体験を持ち帰りたい」という想いは、益々大切なものになっていると感じます。

「つくり手の顔が見える」というのは変わる事なく大切で、こうして交流できる「ヒト」と「場所」の重要性を、ネットが主流になった今、改めて感じることができました。『2k540 AKI-OKA ARTISAN』は、それらを実現したカタチのひとつとなっています。

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」カプセルトイデザイン
カプセルトイ(ガチャガチャ)の自販機も
施設に合ったものになっていました。

情報を無批判に鵜呑みにするのではなく、本当に必要とされているもの、本当に大切な事を商品やサービスにして提案する為には、考えを徹底的に突き詰めなければなりません。
その結果としてデザインは生まれてくるものであり、だからこそ、「デザインは問題解決の手段」となるわけです。

『2k540 AKI-OKA ARTISAN』は、「結ぶ」という事にフォーカスした企画ですが、プロのデザイナーであればそこで提案される「商品」や「体験」や「サービス」というコンテンツだけではなく、企画された方のコンセプトというカタチの見えない概念にこそ、注目しなければならないと思います。

「こういうコンセプトなんだけど、それをどうカタチにしていいのかわからない。このままでは」という問題に対してカタチを示す事、サービスや体験というカタチのないものに対して、わかりやすいカタチを作って企画者と顧客をつなぐ事もまたデザインの仕事なのです。


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グラフィックデザイン:DESIGN + SLIM