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2014年3月24日月曜日

ローリング・ストーンズのシンボルマークとツアーパンフレットデザイン:『ベロ・マーク』のバリエーションから読むトップランナーとしての意志


ローリング・ストーンズ『14 ON FIRE ジャパンツアー』
2月26日(水)、3月4日(火)、3月6日(木)の3日間、東京ドームで8年ぶり6回目となる「ザ・ローリング・ストーンズ」のジャパン・ツアーが行われました。


●エンターテインメント業界に於ける
 ローリング・ストーンズのツアーの位置づけ

ローリング・ストーンズのツアーは、エンターテインメントの世界では『特別なもの』と言っても過言ではありません。
イベント・興行の規模としては、W杯やオリンピックに匹敵する規模となっており、関わるスタッフも世界中から選りすぐられた超一流の人材です。
つまり、ストーンズのツアーは未だクリエイティブのトップを走る表現に触れる事の出来る希少な機会と言えます。
私は最終日3月6日の公演に行ってきましたが、開演前から会場周辺は異常な期待感に包まれており、「確かにこれは『特別』なイベントなのだ」という印象を強くしました。

以下、今回のツアーパンフレットを見て気づいた点等、シンボルマークのデザインと今までのパンフレットデザインの比較をメモしておきます。


●ローリング・ストーンズのベロ・マーク。
 そのデザインについて

ストーンズのパンフレットやグッズには、あの有名な「ベロ・マーク」を使用したものが多数あります。あのマークは当時学生だった「ジョン・パッシェ(John Pasche)」によるデザインで、1971年のアルバム『Sticky Fingers』がリリースされた時に作られました。
・「シンプルである」
・「テーマに合っている」
・「時代を超えて通用する」
・「目に留まりやすい」
・「記憶に残りやすい」
・「応用がきく」
等、シンボルマークにとって重要な要素が押さえられたものになっており、43年経った今でも使用され続けています。

ストーンズは息の長いバンドなので、アルバムやツアーのコンセプトに合わせて「ベロ・マーク」にも多数のバリエーションが見られます。それらバリエーションがアルバムやツアーのビジュアルに加え、様々なグッズやライブ中のヴィジュアル・エフェクトにも使用されるのですから、バリエーションは多岐に渡っています。
また、近年、そのブランド・エクイティ(ブランドが持つ様々な無形的な資産価値)が更に高まっているように思われます。実際、ストーンズの使用したプロモーション手法やデザインは数限りなく模倣されてきましたが、あの『ベロ・マーク』は数年前には一部の音楽好きにしか通用しないものでした。
しかし、ここ数年はストーンズファンでもなく、特別に音楽好きでもない多くのタレントが堂々とあの『ベロ・マーク』を取り入れているのを目にするようになりました。数年前には考えられない事ですが、少なくともイメージを大切にするタレントの方々が自らの価値を下げるようなものを身に着ける事は考えにくいと思います。


●ツアー、あるいはアルバムのコンセプトと
 ツアー・パンフレットのデザインについて

2014年『The Rolling Stones Announce 14 ON FIRE Tour』のパンフレットデザイン

今回の『14 ON FIRE Asia Pacific Tour』はタイトル通り、炎をイメージさせるカラーのグラデーションを使用したデザインです。「ベロ・マーク」は「14」という数字から飛び出した形になっていますが、近年では珍しくアレンジされていない、オリジナルの状態で使用されていました。
今回のツアーはバックミュージシャンやセットデザインも過去のものと比較すると最低限に抑えられ、全体的に演奏もシンプルなものになっていますが、今回の最もスタンダードな「ベロ・マーク」も、そのベクトルと一致しています。
150万人を越える観客を動員した史上最大のフリーコンサートや、様々なギミックを凝らした演出やセットデザインを行ってきたストーンズが判断した「今、やるべき事」は「シンプルに本質を観せる」という事だったのかもしれません。
パンフレットに使用されている写真も、ライヴの臨場感を伝えるような強く、汗の臭いを感じさせる写真が多い印象を受けました。良くも悪くも洗練は生命力を衰退させます。今回はパッと見としては趣味嗜好に凝った感じはしなかったのですが、それは洗練の逆を狙ったのかもしれません。洗練の逆にあるのはプリミティブであり、プリミティブの意味するところは生命力でしょう。
洗練に向けて突き進んでいく道程にあって大衆文化がポロポロと落としていくプリミティブなもの。
エコロジーを声高に叫ぶのではなく、利便性や豊かさを追いかけて迷走するのでもなく、プリミティブなものを見つめ直す。
今回のストーンズのアンテナの張り方に、なにかハッとさせられました。これは私にとって、大きな収穫の一つと言えます。


『THE ROLLING STONES A BIGGER BANG TOUR』パンフレットデザイン
2006年『THE ROLLING STONES A BIGGER BANG TOUR』のパンフレットデザイン

『A BIGGER BANG TOUR』はツアータイトル通り、マークが爆発しています。爆発していても「ベロ・マーク」が視認出来る状態のバランスが絶妙で、構成も見事だと思います。爆発して四散する表現も洗練されています。素朴に爆発を表現してしまえば、どうにも野暮ったいものになってしまったでしょう。こういった方法を自然に引き出せなくてはプロのデザイナーとは言えませんが、言う程簡単ではないのも現実です。71年のアンディ・ウォーホルを引き合いに出すまでもなく、ストーンズの起用するクリエイターはその時代その時代の超一流のクリエイターであり、簡単か試行錯誤の末かは不明ですが、結果としてこれを引き出せるという信頼があるからこそ、ストーンズに起用されるのです。この優れたイメージはライブ中のビジュアル・エフェクトにも使用されていました。


『THE ROLLING STONES LICKS WORLD TOUR』パンフレットデザイン
2003年『THE ROLLING STONES LICKS WORLD TOUR』のパンフレットデザイン

『LICKS WORLD TOUR』パンフレットの表紙では「ベロ・マーク」は使用されていませんが、真っ赤な唇や女性の下着がかなりのインパクトを持っています。「真っ赤な唇=ストーンズ」という狙いなのか、は定かではありませんが、このビジュアルを眼にした時にあの「ベロ・マーク」を連想されるであろう事は容易に想像ができます。このツアーの前に発売されたアルバム『FORTY LICKS』のジャケットでは、青・黄・赤のグラデーションの「ベロ・マーク」が使用されていて、ツアー用のものは、色とりどりのマークが3つ並んだ状態のものでした。
こういった彩りの華やかさ、とパンフレットの表紙はヒット曲を満載したベストアルバム『FORTY LICKS』に相応しいものであり、そのアルバムをフォローする『LICKS WORLD TOUR』であれば、今回のツアーのような「シンプルに本質を観せる」のはバラエティー感覚に乏しい印象を与えてしまったかもしれません。本来、パンフレットの表紙であれば最重要項目である「ベロ・マーク」を使わなかったのは英断と言えますが、そこに至るまでの決断のプロセスにはデザイナーとして、非常に想像力を掻立てられます。
例えて言うならそれは「iPhoneからリンゴのマークを外そう」という判断と同種の決断であり、「ここはベロ・マークを外そう」という判断は、ストーンズとその周辺のクリエイティブスタッフのセンスが凡百のものではない事の証と言えそうです。
盛る事よりも引き算こそがセンスですが、そのセンスとは「生まれ持ってのもの」というよりも多分に経験と
「普段からどれだけデザインについて考えているか?」という生活態度に育まれるものだと思います。


『THE ROLLING STONES STEEL WHEELS JAPAN TOUR』パンフレットデザイン
1990年『THE ROLLING STONES STEEL WHEELS JAPAN TOUR』のパンフレットデザイン

『THE STEEL WHEELS JAPAN TOUR』は、24年前に初来日した時のものです。「ベロ・マーク」は赤と青にギザギザで分割されたものが使用されていました。さすがに四半世紀程前ともなると、当時はカッコよく見えたアートワークもちょっと古く見えますね。演出やセットデザインも今回のツアーとは対象的に非常に凝っていて、こういった趣向がこの当時の「今、やるべき事」だったのでしょう。セットデザインやアルバムジャケットも全体的に金属的で、全体的にインダストリアルなイメージなのは勿論、『STEEL WHEELS』をフォローするツアーだったからですが、気になるのは『STEEL WHEELS』なのに表紙が飛行機(宇宙船?)のイラストが使用されている事です。ここにどういう決断があったのか、にも大いに関心を覚えます。


●業界のトップランナーで在り続けるという事

ストーンズの活動開始は60年頃からスタートしてから10年間、ロゴマークがありませんでした。
つまりアイコンを決定するというのは企業であれバンドであれ、それだけ重要な事と言えます。
実態も定かではないのにイメージ戦略ばかりに目を配るのではなく、ロゴマークはなくとも揺るぎなく実態はある、という仕事の仕方/在り方はとても素敵ですね。

かなり長い記事となりましたが、最後に最も大切な事を記します。
それは在り方について。
ローリング・ストーンズには名盤と呼ばれるアルバムが多くあります。
中でもあえて一枚、と聞かれたら「メイン・ストリートのならず者(EXILE ON MAIN ST.)」は有力な候補となるでしょう。
このやや古めかしいアルバムタイトルはショービズの世界のトップランナーで在り続けたストーンズの在り方を示しています。
それは、
「決して時代には押し流されない。世間なんか知らないよ、とばかりに趣味的に自分たちの世界だけで生きていくのでもない。あくまでメインストリートで自分らしくふるまうんだ」
という意志です。
日本にはサブ・カルチャーはあっても、カウンター・カルチャーはほとんど存在しないに等しい状態と言えます。あったとしてもメインストリートにその存在感は皆無と言っても良いでしょう。
サブ・カルチャーは趣味です。対してカウンター・カルチャーはプロテストであり、不満の表現です。
そんなカウンター・カルチャーがここまであまり存在感を示してこなかった事は、ある部分において日本がそれなりに良い国だったのだと思います。
私は「花鳥風月を唄うだけ」、「プロテストするだけ」、では不十分であり、ましてや「どちらがより優れている」とは言えないと考えています。
息を呑むような美しいイメージに悩みを忘れてしまう程、没入してしまう事もあれば、時にメインストリートのならず者に勇気づけられる事もあって、デザインを提案する際にもそういった切り替えを適切に行える柔軟さが必要なのではないか。
今回、この記事を書くにあたってパンフレットをめくり、ステージの上で躍動するローリング・ストーンズを思い出しては、そんな事を考えました。


★R's MEMO 最終公演 3月6日(木)のセットリスト
 01. Jumpin’ Jack Flash
 02. You Got Me Rocking
 03. It’s Only Rock ‘N’ Roll (But I Like It)
 04. Tumbling Dice
 05. Ruby Tuesday
 06. Doom And Gloom
 07. Respectable (Fan vote – with Tomoyasu Hotei)
 08. Honky Tonk Women
   - Band Introductions -
 09. Slipping Away (with Keith on lead vocals
            and Mick Taylor joining on guitar)
 10. Before They Make Me Run (with Keith on lead vocals)
 11. Midnight Rambler (with Mick Taylor)
 12. Miss You
 13. Paint It Black
 14. Gimme Shelter
 15. Start Me Up
 16. Sympathy For The Devil
 17. Brown Sugar
   - ENCORE -
 18. You Can’t Always Get What You Want
 19. (I Can’t Get No) Satisfaction (with Mick Taylor)


   R.I.P. L'Wren Scott


▶ The Rolling Stones Announce 14 ON FIRE Asia Pacific Tour 


グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM





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2013年12月18日水曜日

「ソニー」の93言語対応フォント開発プロジェクト『SST Type Project』:企業イメージに不可欠な「デザイン」と変化する「デザイン」の役割


ソニー「SST」フォント開発・プロジェクト・タイプ・デザイン1
『SST Type Project』特設ウェブサイト

長期間にわたる開発プロジェクトを経て、「ソニー」のオリジナルフォント『SSTフォント』が発表されました。このフォントを初めて見た時、私はデザインクオリティーの高さと、93言語に対応したことに驚かされました。特設サイトでは、開発プロジェクト『SST Type Project』の詳細が明らかになっています。

ウェブサイトには、
商品の小型化が進み、ハードウェアに記載される文字が小さくなる一方で、スマートフォンやタブレットなどディスプレイでの体験が主役に変わりつつあります。こうしたハードウェア上の表記はもちろんコンテンツを快適に楽しむ上で、文字の読みやすさはとても重要です。また、「フォント(書体)」の印象は商品のイメージだけでなく体験そのものに影響を与える大切なデザイン要素。ソニーが提供する商品そのものの価値や体験の質をさらに高めるためには、フォントのデザインにこだわる必要があると考えました。また、ソニー独自のフォントを開発することで、広告やwebサイトだけでなく、店頭でのプロモーション、商品、サービス、取扱説明書に至るまで、ユーザーとのあらゆるタッチポイントでソニーならではの共通の感動体験を提供できるはずです。こうして、ソニー全体で使うためのコーポレートフォントの開発プロジェクトが始動しました。
とあります。

そして実際にフォントをつくるにあたり「ソニー」が目指したのは、「硬質感と可読性の両立」で、「シャープさを残しながらも可読性の高い書体」です。
その結果として、「Helveticaの硬質感」「Frutigerの可読性」という2つのフォントのエッセンスを抽出し、「Frutigerの高い可読性」「Helveticaのようなシャープな骨格」という相反する要素を融合させたそうです。(ちなみに「Helvetica」は、今までソニーが多く使用してきたフォントで、「Frutiger」は、標識用に開発され、高い可読性を持つフォントです。)

今回のフォント開発プロジェクトでの最大のポイントは、93カ国語に対応したオリジナルフォント『SST』をつくることにより、「ユーザー体験そのものをデザインすること」です。『SSTフォント』の完成により、世界中どこでも、どのようなデバイスでも、同一のイメージとメッセージ、ユーザー体験を受け取ることが可能となりました。また、ボーダーレスになったことで、国や言語に左右されない一貫したブランド構築ができることは、このプロジェクト最大のメリットであると言えるでしょう。


Sony Japan | Sony Design | Design Projects | SST Type Project
『Sony Design × Monotype』
福原寛重さん(ソニー株式会社クリエイティブセンター・チーフアートディレクター)と小林章さん(ドイツ モノタイプ社〈前ライノタイプ社〉・タイプディレクター)のインタビュー

「ソニー」サイト内のコンテンツ『デザイン』ページでは、早速このオリジナルフォント『SST』を使ったページが美しくデザインされていました。「クラウドフォント」として使用することで、指定した『SST』が、画像ではなくテキストとして表示されています。(クラウドフォントとは、インターネットを介してフォントを配信し、ウェブブラウザで表示させる仕組みのことです。閲覧する側のデバイスに指定されたフォントが搭載されていなくても、制作側で指定したフォントが表示されるものです。)

今回の「93言語対応のフォントをゼロからつくる『SST Type Project』」が遂行されたことにあたり、どれだけ膨大な時間と手間がかかっているのかは想像に難くなく、ソニーの底力を見せつけられたような思いがしました。主要なデバイスの変化は、今回のフォント開発にとって、大きなきっかけの一つであることは疑いようはありません。

しかし、もう一歩踏み込んでみると、ユーザー体験の優先順位がアップルの躍進以後飛躍的に高まったことや、ユーザー体験そのものが、イメージ構築に大きく関与していることが再発見されているからでしょう。

ユーザー体験が注目されるようになったのは、アップル以前にアマゾンのレビューなどのインターネットがもたらした「クチコミ文化」ではないか、と思います。「その筋の大家」ではなく、一般ユーザーが実際に購買してみての感想が、ソーシャルメディア時代よりもはるか以前に重視されるようになり、企業も宣伝だけではなく、サービスや商品の品質を上げることなどに注力するようになりました。

デザインは確かに企業イメージに大きく影響します。しかし、以前、考えられていた見た目のイメージ作りとは違ったカタチ、問題解決や使用感といった領域において、デザインは企業イメージに影響を及ぼしていくことになりそうです。そしてデザインの失敗は、コミュニケーションの失敗と同義となる時代になっているのかもしれません。

こう考えていくと何故、ソニーが大変な労力を払ってオリジナルフォントを開発しなければならなかったのか、が見えてくると思います。今後この『SSTフォント』が、世界中のソニー製品や広告等でどのようにデザインし表現されるのか、これからのソニーの展開を楽しみに注目していきたいと思います。


グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM





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2013年10月2日水曜日

安藤忠雄設計の『UCHISANGE SQUARE』:信用金庫の本質、これからの豊かさを形にするデザイン、ソーシャル・キャピタルについて。


安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』外観
『UCHISANGE SQUARE』外観

金融機関の店舗・施設のイメージは信用とセキュリティを強く打ち出したものが多く、頑(かたくな)な印象が一般的なものだと思います。資産の運用サービスが主な取り扱い商品となりますので、華美である事は信頼を損ないますし、かと言って一昔前にもてはやされた「緩さ」は、セキュリティなど諸処の面で適切には思えません。信頼感やセキュリティといった「重過ぎる優先事項」が重石となって、金融機関一般のデザインが無味乾燥になるのはある意味、必然と言えます。

そんな必然の中にあって、今年4月8日にオープンした、安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』(おかやま信用金庫・内山下支店)は、今までにない新たな店舗の形態を打ち出しました。

金融機関の持つ既存の無味乾燥なイメージから解き放たれたような、「銀行らしさ」を裏切る建築は、
「これまでの金融機関のようなセキュリティー重視の閉鎖的な建物ではなく、地域に開かれた、全く新しい店舗をつくってほしい」
という依頼のもとに設計されたもので、今まで「常識」と信じられてきた事をもう一度見つめ直す、勇気あるチャレンジです。

金融機関はお客様の大切な財産をお預かりしている場所ですから、本来であれば、用のない人にウロウロされるのはあまり歓迎すべき事態ではないと思います。私自身、そんな懸念があったので念の為、従業員の方に見学を申し出たのですが、迷惑がられるどころか、係の方が丁寧に案内してくださいました。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』入口横のサイン
入口横のサイン。

■本質的なミッションを見つめ直す

「信用金庫は、セキュリティー重視の閉鎖的な建物ではなく、地域に開かれた店舗でなければならない」
というミッションを会社組織としてどれだけ重要視していて、そこで働く従業員の方々もその意味を共有されているか、これだけでもよくわかると思います。つまり、豊かな資金にモノをいわせて「著名建築家・安藤忠雄」に店舗設計を依頼したのではなく、「信用金庫は地域に開かれたものであるべき」という本質的なミッションを達成する為に「安藤忠雄」の力が必要だったという事なのです。

店舗内は蛍光灯のパキッとした光だけではなく、ヨーロッパの人が「禅を感じる」と評価する安藤忠雄さんらしい、自然光をスリットから取り入れた、落ち着きを感じられるような作りになっています。ここはお客様が投資や資産運用など、自分の生活や将来について相談する大切な場だからこそ、リラックス出来るように、という配慮が感じられます。

2Fにはセミナールームとして使用できるスペースもあり、定期的に説明会などのイベントも開催されていました。こういった人が集まる場を用意する事によって、店舗を訪れる機会も提供しているわけです。
(もちろん通常の銀行としての利用もありますから、1FにはATMや窓口も設置されています)

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』1Fギャラリー
ライン照明が使われている「1F ギャラリー」

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』店内

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』店内

今回の「おかやま信用金庫・内山下支店」の試みは、ただ新しく綺麗な店舗を造るだけでなく、店舗の在り方をアップデートしたものです。『UCHISANGE SQUARE』には、既存の概念やシステムを見直す事の重要性を強く印象づけられました。このような時代に、巨額を投じてこのような店舗をオープンさせる事に、企業としての決意と意気込みを感じました。

■ソーシャル・キャピタルという概念

ソーシャル・キャピタルという概念があります。
個人の所有する財産、「ヒューマン・キャピタル」に対して、社会的な財産、共同体の財産の事です。大雑把過ぎるなんていう言葉では足りないくらい大雑把に、この話題に絞って規定してしまえば、「多くの人がわいわいがやがやと交わるコミュニティは価値が高い」という事です。「豊かさ」について考察する時に今までのように「個人が所有するヒューマン・キャピタル」だけに注目するのではなく、「ソーシャル・キャピタル」の面からも考えてみる。それがこのような時代だからこそ必要な視点と言えるかもしれません。
そして、金融機関でそれが出来るのは大都市のメガバンクではなく、地域に根付いた信用金庫の特権かもしれません。「地域に根付いた地方の信用金庫」というと、なんとなく地味な感じを持たれるかもしれませんが、私は過去に金融機関の一店舗のオープンに100人を越える人々が見学に訪れた、という話を聞いた事がありません。マーケティングは、現在まで成功していると思いますし、「おかやま信用金庫」という企業が掲げ、安藤忠雄さんが共有したミッションの真摯さと、困難を克服した店舗の設計・デザインに、私は感嘆しました。問題や不安はもやもやとした曖昧な概念で、それら問題点や不安の解決に求められるのは、具体的な設計(デザイン)なのですね。

訪問した日は曇天で、うっすらと柔らかな光に包まれたような気配が絶妙でしたが、晴天の日であれば、自然光を取り入れた室内と緑溢れるテラスは、また違った表情を感じさせてくれると思います。外観周りの植物は植えられたばかりで、これから木々が育ち建物と調和してくると演出された「華美」ではなく、存在そのものが美しい『地域の財産』になるのだと私は想像します。
「豊かさとは何か」、「ブランディングについて」、「これから先、何を取捨選択して育んでいくべきなのか」と色々な事を考えさせられる、実り多い体験になりました。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』2F ルーム1
吹き抜け越しにルネスホール(旧日銀岡山支店)が見える
「2F ルーム1」。ルネスホールも敷地の一部と考え、
その魅力も最大限引き込むように設計されている。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』2F ルーム3
グレーを基調とした「2F ルーム3」
水平スリット窓から自然光が入る。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』4Fラウンジ
スリット窓から自然光が入る「4F ラウンジ」

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』4Fラウンジ

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』屋上テラス
最上階の「屋上テラス」
2階から4階へは外の螺旋階段でつながっている。


おかやま信用金庫 | トップページ

前回の「ブランディング」に関する記事はこちら
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グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM

2013年9月24日火曜日

『Bing』の新ブランドデザイン +「フラットデザイン」は必然。


新しい「Bing」のブランドデザイン
The Bing JP Blog / Bing日本版公式ブログ

「Microsoft」の検索サービス、『Bing』ブランドデザインがリニューアルされました。そのデザインの過程が記された「Bing日本版公式ブログ」の記事が、興味深い内容となっていたので、メモを兼ねてのまとめです。


 ●『Bing』の使命
  • 「検索がもたらす価値とは何か?」「ユーザーが必要としている事柄は何か」を明確にし、その事柄についての洞察を含んだ情報を届ける。
  • ユーザーが必要とすることを、必要とする方法で提供する。
  • 『Bing』は、開発当初から、「検索を通じてユーザーに目的を成し遂げる力を与える」ことを使命と考え、進化を遂げている。
  • 「単に検索する」という考え方をやめて、「行動につながる洞察を発見する」という考えにシフトする。
  • 「知識によって人々に力を与える」ことを使命と考える。
  • 「深い洞察を持つ、価値の高い情報をユーザーに届ける」ことを使命と考えて製品開発を行い、毎日使う製品に検索を組み込むことで、「最高のエクスペリエンスを届ける」

 ●進化したアイデンティティ
  • 製品に「アイデンティティ」を表現し、製品と共に成長するデザインに仕上げるために、製品グラフィックUX(ユーザー・エクスペリエンス)のデザイナーたちと議論を重ねる。
  • 『Bing』が、従来の検索ページという枠を越えて進化していることを考慮し、製品のロードマップと整合性のとれた「ブランドビジョン」を再設計する。

 ●新しいロゴの開発
  • 「今までのロゴの問題点」を分析し、新しい「Microsoft」のアイデンティティも考慮した上で、モーションフォントカラーサイズフォームを何百通りも検討・検証を行う。
  • ワードマークは、「Microsoft」のコーポレート フォント『Segoe』をカスタマイズしたものを使用する。
  • カラーは、従来の『Bing』のロゴにあったオレンジ色のドットを残し、「Microsoft」のコーポレートロゴカラーパレットを取り入れる。
  • 「Microsoft」のデザインは、原則として、グリッド・レイアウトを採用しているため、新しい『Bing』のロゴをグリッドに重ね合わせると、レイアウトに揃い、一貫性のある角度・視線・バランスを保っている

 ●新しい検索ページ
  • 新しいロゴが完成した後、検索ページのデザインと共にUX(ユーザー・エクスペリエンス)の改良も実施。
  • タイポグラフィーは、「Microsoft」のアイデンティティとの一貫性、および、読みやすさと明瞭さの点より、『Segoe』を基本とする。
  • 新しい『Bing』ブランド・アイデンティティでは、10の際立つ色調を中心とした「Microsoft」のコア・カラーパレットを採用する。
  • 『Bing』では、主にオレンジと黄色、パレットの暖色に重点を置く。
  • 最も重要視するカラーは「Orange 124」で、明瞭、自信、温かさを連想させるこの基本パレットを選択する。
  • モーショングラフィック要素も開発し、『Bing』のシンボルを、光とインスピレーションのプリズムとしてデザインした、「サーチライトグラフィック」を考案する。

 ●未来のためのシステム
  • 新しい『Bing』アイデンティティは、使命と製品との親和性を維持しつつ、『Bing』を戦略的、かつ、視覚的に進化させることを可能にするブランド・アーキテクチャのシステムである。
  • 『Bing』は、単にWeb 上で青いリンクをたどってデータを提供するのではなく、「ユーザーの意思決定をサポートする明確な洞察を提供」する。
  • ユーザーが必要としているのは、情報に基づいて行動を起こし、「最終的に目的を成し遂げること」だと考える。
  • 「検索する」から「行動につながる洞察を発見する」にシフトする。
 ※以上、要約。


『Bing』と新しいロゴについて

『Bing』の新しいロゴは、今までの青を基調とした丸みを帯びたデザインから、シンプルかつ現実的で、直接的なデザインに生まれ変わりました。このように、デザインに込められた意図を知る事によって、「Microsoft」への理解も深まります。
ここ10年あまり、「Apple」や「Google」が注目を集めていますが、「Microsoft」『Bing』が、今後どのような戦略や動きをとっていくのか、注目していこうと思いました。

『フラットデザイン』について

『iOS7』をはじめ、「フラットデザイン」が注目されています。ここに来て、「Apple」「Microsoft」「Google」「YAHOO!」各社一斉にロゴUI(ユーザー・インターフェイス)をフラットデザインに切り替えました。その理由として「Apple」のジョナサン・アイヴは、「ユーザーが直感を必要とする操作に慣れたため、細部まで実物に近づけたデザイン(スキューモーフィック)である必要がなくなった」と述べています。

最初に「フラットデザイン」を目にした時には、チープに感じられるかもしれません。しかし、最低限必要な要素を明解に反映させたデザインは、次第に洗練されたものとして映るようになるでしょう。一見、デザインが簡単なものになったように感じるかもしれませんが、広く一般に浸透して使われる日常的なデザインは、交通標識等の例を挙げるまでもなく、特別なものであってはならないと思います。(装飾ではなく、デザインなので)
ここに来て「スキューモーフィック」から「フラット」への転換が図られた。それは一般に広く認知されたという事であり、そういった意味では「フラットデザイン」の採用は、ひとつの到達点と言えるのです。

デザインに限らず、表現はシンプルです。しかし、それはデザイナーだけの常識かも知れません。だから私は、物事をよりシンプルに表現し、伝えるための「フラットデザイン」が今後完全に定着していくのか、定着するのにどれだけの時間を要するのかを注視していきたいと思います。

「Bing」の特設のWebサイト。『Bing - The new Bing』
「Bing」の特設のWebサイト。『Bing - The new Bing』


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