2013年9月4日水曜日

『アンドレアス・グルスキー展』:多様性の中で際立つ微妙な違い。それがグルスキーを特別な存在にしている。

『アンドレアス・グルスキー』展のポスターデザイン
国立新美術館で『アンドレアス・グルスキーを観てきました。アンドレアス・グルスキーはドイツの現代写真を代表する写真家で、世界中に多くのファンがいます。最近では、サザビーズでのオークション落札金額(約3億2,300万円)が話題になりました。写真に限らず、絵画や映画というものは、いくら印刷物やネットで作品を見ても、体感を得る事は出来ません。作品とは「情報として掴むのではなく、その作品を通じて体感を得なければならないもの」です。

グルスキーの写真は手前のものやメインのモチーフを際立たせるのではなく、大きなものから極小のものまですべてのものを均等に扱っています。より具体的に言うと、画面のすべてにピントがあっている状態です。写真や映画では「パン・フォーカス」と呼ばれるオーソドックスな手法ですが、実際にグルスキー自らが厳選した65点を観た時、今までに見たことのない独特の新たな視覚世界が広がっていました。

グルスキーの作品を観ると、まず日常において、ヒトの目はすべてを見ているわけではない、ということを強烈に感じます。観たいものだけを観て、聞きたいものだけを聞いているという事です。これは本能のようなものかもしれません。それ故に、すべてにピントが合っていることで逆に不安定な感覚をもたらし、時に不快さを伴うこともあったのでしょう。それでも作品に強く惹き付けられるのは、未だかつて見たことのない視覚世界を体感できるからです。

離れて観たり近づいて観たり、時にはかなり大きな作品でありながら細部までよく見えるため、つい近づきすぎてしまうのですが、そういった不安定さを掻き立てる効果を知っての事か、作品前の一定のラインを超えると音が出るようになっていました。

展覧会のキャッチコピーに「これは写真か?世界が認めたアーティスト、日本初の個展」とありますが、確かにこれは従来の写真の枠を超えたものであると考えます。大半のものは具象でしたが、時に抽象的な表現もあり、かなり加工されているため、純粋に写真としてではなく、絵画的に感じられる表現もある。抽象と具象、遠近の距離感といった相反する要素が混じり合う、斬新な表現であると感じました。勿論、そこには格段に進化した現代の写真加工技術が介在しているのですが、その使い方には独特のセンスがあり、それ故にグルスキーは「現代写真を代表する写真家」と呼ばれているのだと思います。

写真の加工や補正にも現在は豊富なバリエーションがあり、日常でそういった作品や印刷物、製品などに触れる機会も増えています。手近なところで言えば無数にリリースされているiPhoneなどの写真アプリのバリエーションに代表されますが、そのような写真を見慣れた今だからこそ、グルスキーの写真を体験するというのは、有意義な体験となります。一見無秩序にすら思える写真加工技術の大海にあって、確かに他とは違う際立った何か、センスや技術を体感すること。その他大勢とグルスキーの間にある圧倒的に見えて、非常に微妙な差異、それこそがグルスキーであり、その差異が彼を「現代写真を代表する写真家」にしているのです。

アンドレアス・グルスキー展の『カミオカンデ』
撮影可能エリアに展示された『カミオカンデ』。

『アンドレアス・グルスキー展』は、
東京展 : 2013年 7/3 ~ 9/16日(国立新美術館)
大阪展 : 2014年 2/1 ~ 5/11日(国立国際美術館)
で開催されています。

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