ショーン・ベイカー監督・脚本・編集『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を観てきました。
観終わったら、ショッピングして、何か食べて帰ろうなどと考えていたのですが、そんな気分が吹っ飛ぶようなインパクトのある映画でした。とりわけエンディングが秀逸で、観終わった後に言葉を失くす程の衝撃です。
物語の舞台はフロリダで、ディズニーランド近くのモーテルで暮らす住人たちの日常が描かれています。その中には主人公で貧困の母子家庭もありますが、貧しくても楽しそうに暮らしていた日常が、様々な出来事により徐々に壊れていくのです。
この映画を観たいと思ったのは、ポップなポスターデザインやパステルカラーの色彩を劇場で体感したかったからです。おおよその内容は把握していましたが、フォトジェニックな映像と裏腹に、現実は想像以上に厳しいものでした。ポップなビジュアルとの対比が鮮明で、よりいっそう過酷な現実が浮かび上がってくるのです。
カメラが常に子どもの目線にあるため、観客は主人公である子供と同じ立場で物語の経緯を追っていくことになります。
子供は無力です。それだけに、抗うことの出来ない立場で全てを奪われていく過程は観客の胸を締め付け、疲労を覚えるほどです。
この作品では、子どもの母親を受け入れられるどうか、が作品評価において、非常に重要となります。多様性を許容できるか、何故、彼女はこういう行動を取るのか、いつ自分が同じ立場になるか、この一連の出来事の責任は本当に彼女一人の責任なのか、などと想像を巡らせながら、観客は無力な子供の目線で物語を追っていきます。
非常に多くの現実に直面し、しかも抗う術がない。
その時に母親に怒りを向けるのか、自分自身の無力さに怒りを向けるのか、社会を呪うのか。
現実は複雑に絡み合っているので何か一つ、特定の対象に怒りを向けるのでは物足りない、虚しさのようなものが残りますが、ラストシーンの風景の見え方で、自分が何に対して、怒り、不安を覚えているのか、幸せとは自分にとって何なのか、が見えてくると思います。
2011年に公開された『少年と自転車』は、ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督が、以前日本の少年犯罪のシンポジウムで聞いた「帰ってこない親を施設で待ち続ける子どもの話」をもとに作られました。今作品のショーン・ベイカー監督は、『フロリダ・プロジェクト』の撮影前に是枝裕和監督の『誰も知らない』を観直したそうです。そして今年、是枝監督の『万引き家族』が公開されました。
なぜか、これらの映画の題材やインスピレーションが日本になっていることが気になります。
2016年に公開された『わたしは、ダニエル・ブレイク』(日本では2017年公開)は、前作で映画界からの引退を表明してしたケン・ローチ監督が、現在のイギリス、世界中で広がる格差と貧困について伝えるために、引退を撤回して作られました。今までにも社会問題を扱った作品を多数制作してきている監督ですが、80代の監督が、今どうしても伝えたいメッセージが凝縮されたストーリーです。
今、格差や貧困をテーマにした映画が、世界で同時に制作されています。つまり、これらはユニバーサルな主題であり、今日的な課題なのでしょう。
これらの作品が今後の社会の在り方を考える上でのひとつの指標になるかもしれません。映画を観ていると、格差や貧困が身近なものであり、誰でも陥る可能性があることがよくわかります。作品を通して多くの人が考え、他者を思いやり、自分自身のためにも行動するきっかけになればと思います。
グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM
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