2013年10月16日水曜日

『DTPの勉強会 第11回』:画像補正入門&Tips集

『DTPの勉強会 第11回』に参加してきました。
今回のテーマは「DTPerのための画像補正入門&Tips集」です。

☆スピーカー
藤本 圭さん(TwitterID:@kei_takephoto
浅野 桜さん(TwitterID:chaca21911
  印刷会社デザイナーを経て、現在は消費財メーカーにて
  自社製品の通信販売に関する企画制作業務全般を担当。
村上 良日(やも)さん(TwitterID:yamo74
  勉強会スタッフ。フリーランスのレタッチャー。blog:やもめも

★DTPerのための画像補正入門&Tips集

 1. 絶対知ってほしい色調補正のルール(藤本 圭)

 2. DTPerのための、すぐに役に立つPhotoshopTips集

 ■ 藤本 圭 TIPs集
  01. ブラシサイズコントロールにフィジカルコントローラーの活用
  02. 使い道が全くないTips
  03. べた塗りカラーで簡単にカラー効果をかける
  04. 画像を白黒にする
  05. グレイッシュに仕上げる
  06. カラー情報と濃度情報を分けて色調補正
  07. shit+ +キーでレイヤー描画モードを変えて効果を比べる
  08. 表示部分をスタンプ&現在の画像から新規ファイルを作る
  09. 美しく流れる髪の毛を描画する
  10. 理想的な顔の形を調べる
  11. ワークスペースを保存する
  12. メモリの容量と画面の表示速度を設定する
  13. 明るさの最大値フィルターで夜景を幻想的に(CC新機能)

 ■ 浅野 桜 TIPs集
  01. 環境設定(1)フリックパン/ダークUI
  02. 環境設定(2)レイヤー周り/「~のコピー」とつけない
  03. 数値入力で正確な位置にガイドを一発で引く
  04. マウスを使わずブラシサイズやカラーを変更する
  05. シェイプやブラシのプリセットを整理して日常作業を効率化
  06. グラデーションツールだけで集中線を描く
  07. グラデーションマップとレイヤーで効率よく色変換
  08. レイヤースタイルの「ブレンド条件」でラフでの切り抜きを省略
  09. スキントーン選択で女性の肌を一気になめらかに
  10. 混合ブラシツールでなぞるだけ。簡単ファンデで毛穴レス
  11.「Photomerge」を使ってパノラマ写真を作る
  12. CCの新機能、Camera RAWフィルタ
  13. Photoshop上で生成したオブジェクトがボケないようにする
  14. 便利になったシェイプ&ストロークオプション
  15. 新しい切り抜きツールで修正しやすいデータを作る
  16. 画像を切り抜きながら傾きも同時に補正する
  17.「コンテンツに応じた拡大・縮小」で足りない部分をサクッと補う
  18.「フィールドぼかし」で選択範囲を作らずにまとめてぼかす
  19. フェードの活用で微調整も時間短縮
  20. 直しに強いスマートオブジェクト
  21. ベクトルスマートオブジェクト
  22. レイヤーグループ全体にレイヤースタイルがかけられる
  23. 画像アセット機能でスライスから一歩進んだ画像書き出し

 ■ 村上 良日 TIPs集
  01. Bridge使ってますか!!
  02. 素早い操作のためにショートカットを編集しよう 
    ( 1. ショートカットを削る&足す)
  03. 素早い操作のためにショートカットを編集しよう 
    ( 2. トーンカーブをショートカットキーで素早く繊細に)
  04. 素早い操作のためにショートカットを編集しよう 
    ( 3. チャンネル読み込みのショートカットで繊細な色補正)
  05. 補正の役に立つレイヤー効果の使い方
  06. CCの腐った解像度パネルを使わずに解像度変更
  07. 総インキ量(TAC値)をプレビューしながら調整する

『画像補正入門&Tips集』では上記のように、かなりの数のTipsを紹介されました。スピーカー3名の方の「業務内容の違い」からくる「アプローチの違い」が、良い具合にコントラストになっていて、とても印象深い勉強会となりました。

藤本さんは、ブライダル関係のクオリティ高い写真を扱う事が多く、ある程度の「時間をかけて最高の仕上がりを目指す」というもの。

浅野さんは、印刷やウェブなど、あらゆるものに素早く対応する必要があるので「流用と修正に強く、時短で仕上げる」というもの。

村上さんは、写真撮影と印刷全般に精通しているので、「撮影と印刷を踏まえた上で、各種レタッチを行う」というもの。

いずれのケースも求められる条件が明解です。これもスピーカーの方々がクライアントの要望を適確に把握しているからでしょう。技術的な事を言えば、補正ひとつをとってみても状況や要望に応じて様々なやり方があり、そこが面白いところです。

また、実物に近い「正しい画像」「理想の画像」は違うこと、補正にはこれといった正解がないことをきちんと認識した上で、最終的にどのように仕上げるのか、という「目的を明確にする」必要性を改めて強く感じました。

印刷やウェブなど、それぞれのアプローチがある中でも共通しているのは、質問の中で藤本さんが回答されていた「絶対評価ではなく、相対評価。」「どちらに転んでも大丈夫なデータ制作。」というものです。このさじ加減とバランスが一番難しいところかもしれません。

現在はカメラマンだけでなく、デザイナーやオペレーターが画像の補正をする機会が多々あります。デジカメの普及により、素人が撮影した画像を補正し、使用することも増えてきました。デザインやDTPにおいて、画像補正は益々重要なものとなっています。
また、写真を扱う様々なソフトの機能も向上しました。以前はかなり時間を要した作業も、あっという間にできてしまうものがいくつもあります。このように定期的に新機能を確認したり、やり方を見直してみるのに、今回の勉強会はとても有意義なものとなりました。
そしてそれらすべての出発点は、クライアントの言葉に丁寧に耳を傾ける事であり、技術は求められる要望を最良のカタチにするためのツールである事は言うまでもありません。便利なTipsを覚えて身に付ける事は、それ自体が仕事のクオリティーを自然と上げてくれます。
今回の勉強会でスピーカーの方々が惜しげもなく公開されたTipsのその先に、私はスピーカーの方とクライアントの親密なコミュニケーションや、追い求めた仕事の理想像に思いを巡らせずにはいられません。

下記2冊の書籍は最近読んだものですが、とても参考になったのでご紹介です。以前は数ページにも渡って紹介されていたようなテクニックが、今は見開き程度の分量になっていて、役立つのと同時に感動も覚えました。
『Photoshop 10年使える逆引き手帖』(藤本圭 著/ソフトバンククリエイティブ)
今回のスピーカー・藤本さんの『Photoshop 10年使える逆引き手帖』(藤本圭 著/ソフトバンククリエイティブ)です。ベーシックから応用まで、必要に応じてテクニックを確認することができます。

『神速Photoshop グラフィックデザイン編』(浅野桜・石嶋未来・加藤才智・服部紗和・ハマダナヲミ 著/アスキー・メディアワークス)
今回のスピーカー・浅野さん共著の『神速Photoshop グラフィックデザイン編』(浅野桜・石嶋未来・加藤才智・服部紗和・ハマダナヲミ 著/アスキー・メディアワークス)です。新機能の紹介をはじめ、103の時短テクニックが掲載されています。

DTPの勉強会【DTPの勉強会第11回】(2013年10月12日開催)

前回参加した『DTPの勉強会』の記事はこちら

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グラフィックデザイン:DESIGN + SLIM

2013年10月9日水曜日

岡山電気軌道の路面電車『MOMO』:インダストリアルデザイナー「水戸岡鋭治」が実現した公共交通機関


水戸岡鋭治デザインの路面電車『MOMO』
岡山市内を走る岡山電気軌道の路面電車に、2002年『MOMO』という水戸岡鋭治さん(インダストリアルデザイナー)デザインの新車両が導入されました。『MOMO』は、次世代の路面電車といわれる「LRV(ライト・レール・ビークル)」で、超低床型のドイツ製台車を使用し、車椅子での乗車も楽にできるようになっています。また、従来の車両に比べてかなり静音でスムーズな走行が可能です。

岡山電気軌道 路面電車『MOMO』車両デザイン
シルバーとコバルトブルーの未来的なデザイン。

『MOMO』は外観・内装、共に非常に考え抜かれてデザインされています。特に内装は、座席やテーブルだけでなくフロアにも天然木が使用されており、従来の電車にないこだわりが見られます。また、広く大きくとった窓からは自然光が入り、明るく開放感に満ちていて、今まで経験したことのない視野が広がっているのが新鮮でした。

岡山電気軌道 路面電車『MOMO』車内デザイン1

岡山電気軌道 路面電車『MOMO』車内デザイン2

岡山電気軌道 路面電車『MOMO』車内デザイン3

岡山電気軌道 路面電車『MOMO』運転席デザイン

水戸岡さんの言葉に、
『公共施設や公共交通機関など、公のものは最高のデザイン、最高の素材でなければならない』
というものがあります。なぜならば、人々は誰もが触れる公共のものからデザインを学び、とりわけ子供たちはそういったものに触れることによって美意識や価値観が作られる、と考えているからです。『MOMO』は、そういう考えをきちんと反映したものになっていました。

もともと『MOMO』導入に至った経緯は、岡山の市民団体「RACDA(路面電車と都市の未来を考える会)」が、中心市街地の空洞化、慢性的な渋滞、多発する自動車事故など、様々な問題を解決するために、岡山県出身のデザイナー・水戸岡さんに依頼したのがきっかけです。

地方都市は、車なしでの生活は考えにくいのですが、欧米の一部都市では、それら都市問題の解決策として、路面電車やバスなどの公共交通機関を復権させている例があります。
例えば、ポートランドには「MAX」という路面電車があります。
「MAX」『MOMO』と同タイプで、ホームと電車の床の高さが同じノンステップ車両です。こちらは車椅子はもちろん、折りたたみ式ではない通常の自転車を持ち込むことも可能です。

超低床型のノンステップ車両『MOMO』
超低床型のノンステップ車両。車椅子での乗車も楽にできる。

地方都市では、学校や職場に最寄り駅がない場合、日常の生活に電車を利用しないことがほとんどですが、『MOMO』の車内では定期的にイベントが行われ、誰でも参加し乗車できる機会を作っています。延伸・環状化の実現には、事業計画や事業資金の調達など、クリアしなければならない問題も多数ありますが、『MOMO』には都市部の公共交通機関としての新たな可能性を感じています。

 ※追記:写真はすべて『MOMO2』です。


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グラフィックデザイン:DESIGN + SLIM

2013年10月2日水曜日

安藤忠雄設計の『UCHISANGE SQUARE』:信用金庫の本質、これからの豊かさを形にするデザイン、ソーシャル・キャピタルについて。


安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』外観
『UCHISANGE SQUARE』外観

金融機関の店舗・施設のイメージは信用とセキュリティを強く打ち出したものが多く、頑(かたくな)な印象が一般的なものだと思います。資産の運用サービスが主な取り扱い商品となりますので、華美である事は信頼を損ないますし、かと言って一昔前にもてはやされた「緩さ」は、セキュリティなど諸処の面で適切には思えません。信頼感やセキュリティといった「重過ぎる優先事項」が重石となって、金融機関一般のデザインが無味乾燥になるのはある意味、必然と言えます。

そんな必然の中にあって、今年4月8日にオープンした、安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』(おかやま信用金庫・内山下支店)は、今までにない新たな店舗の形態を打ち出しました。

金融機関の持つ既存の無味乾燥なイメージから解き放たれたような、「銀行らしさ」を裏切る建築は、
「これまでの金融機関のようなセキュリティー重視の閉鎖的な建物ではなく、地域に開かれた、全く新しい店舗をつくってほしい」
という依頼のもとに設計されたもので、今まで「常識」と信じられてきた事をもう一度見つめ直す、勇気あるチャレンジです。

金融機関はお客様の大切な財産をお預かりしている場所ですから、本来であれば、用のない人にウロウロされるのはあまり歓迎すべき事態ではないと思います。私自身、そんな懸念があったので念の為、従業員の方に見学を申し出たのですが、迷惑がられるどころか、係の方が丁寧に案内してくださいました。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』入口横のサイン
入口横のサイン。

■本質的なミッションを見つめ直す

「信用金庫は、セキュリティー重視の閉鎖的な建物ではなく、地域に開かれた店舗でなければならない」
というミッションを会社組織としてどれだけ重要視していて、そこで働く従業員の方々もその意味を共有されているか、これだけでもよくわかると思います。つまり、豊かな資金にモノをいわせて「著名建築家・安藤忠雄」に店舗設計を依頼したのではなく、「信用金庫は地域に開かれたものであるべき」という本質的なミッションを達成する為に「安藤忠雄」の力が必要だったという事なのです。

店舗内は蛍光灯のパキッとした光だけではなく、ヨーロッパの人が「禅を感じる」と評価する安藤忠雄さんらしい、自然光をスリットから取り入れた、落ち着きを感じられるような作りになっています。ここはお客様が投資や資産運用など、自分の生活や将来について相談する大切な場だからこそ、リラックス出来るように、という配慮が感じられます。

2Fにはセミナールームとして使用できるスペースもあり、定期的に説明会などのイベントも開催されていました。こういった人が集まる場を用意する事によって、店舗を訪れる機会も提供しているわけです。
(もちろん通常の銀行としての利用もありますから、1FにはATMや窓口も設置されています)

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』1Fギャラリー
ライン照明が使われている「1F ギャラリー」

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』店内

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』店内

今回の「おかやま信用金庫・内山下支店」の試みは、ただ新しく綺麗な店舗を造るだけでなく、店舗の在り方をアップデートしたものです。『UCHISANGE SQUARE』には、既存の概念やシステムを見直す事の重要性を強く印象づけられました。このような時代に、巨額を投じてこのような店舗をオープンさせる事に、企業としての決意と意気込みを感じました。

■ソーシャル・キャピタルという概念

ソーシャル・キャピタルという概念があります。
個人の所有する財産、「ヒューマン・キャピタル」に対して、社会的な財産、共同体の財産の事です。大雑把過ぎるなんていう言葉では足りないくらい大雑把に、この話題に絞って規定してしまえば、「多くの人がわいわいがやがやと交わるコミュニティは価値が高い」という事です。「豊かさ」について考察する時に今までのように「個人が所有するヒューマン・キャピタル」だけに注目するのではなく、「ソーシャル・キャピタル」の面からも考えてみる。それがこのような時代だからこそ必要な視点と言えるかもしれません。
そして、金融機関でそれが出来るのは大都市のメガバンクではなく、地域に根付いた信用金庫の特権かもしれません。「地域に根付いた地方の信用金庫」というと、なんとなく地味な感じを持たれるかもしれませんが、私は過去に金融機関の一店舗のオープンに100人を越える人々が見学に訪れた、という話を聞いた事がありません。マーケティングは、現在まで成功していると思いますし、「おかやま信用金庫」という企業が掲げ、安藤忠雄さんが共有したミッションの真摯さと、困難を克服した店舗の設計・デザインに、私は感嘆しました。問題や不安はもやもやとした曖昧な概念で、それら問題点や不安の解決に求められるのは、具体的な設計(デザイン)なのですね。

訪問した日は曇天で、うっすらと柔らかな光に包まれたような気配が絶妙でしたが、晴天の日であれば、自然光を取り入れた室内と緑溢れるテラスは、また違った表情を感じさせてくれると思います。外観周りの植物は植えられたばかりで、これから木々が育ち建物と調和してくると演出された「華美」ではなく、存在そのものが美しい『地域の財産』になるのだと私は想像します。
「豊かさとは何か」、「ブランディングについて」、「これから先、何を取捨選択して育んでいくべきなのか」と色々な事を考えさせられる、実り多い体験になりました。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』2F ルーム1
吹き抜け越しにルネスホール(旧日銀岡山支店)が見える
「2F ルーム1」。ルネスホールも敷地の一部と考え、
その魅力も最大限引き込むように設計されている。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』2F ルーム3
グレーを基調とした「2F ルーム3」
水平スリット窓から自然光が入る。

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』4Fラウンジ
スリット窓から自然光が入る「4F ラウンジ」

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』4Fラウンジ

安藤忠雄設計『UCHISANGE SQUARE』屋上テラス
最上階の「屋上テラス」
2階から4階へは外の螺旋階段でつながっている。


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前回の「ブランディング」に関する記事はこちら
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グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM