2012年7月23日月曜日

「INDD 2012 Tokyo(InDesignユーザーの祭典)」:PDF出力は本当に使えるのか?


7月20日に「INDD 2012 Tokyo(InDesignユーザーの祭典)」が開催されました。ユーザー(有志の実行委員)主催のこのイベントは、大規模でありながら、今までになかったユーザー目線での工夫が凝らされたものでした。今回登壇されたスピーカーの方々は、書籍の出版もされていたりその分野に関しては特に見識のある方ばかりです。「InDesignトラック」と「電子書籍トラック」の二つの会場に分かれての開催でしたが、私は「InDesignトラック」に参加しました。

★INDD 2012 Tokyo(InDesignトラック)※敬称略
A-1:InDesignのスタイル機能を使い倒す
   森 裕司(InDesignの勉強部屋
A-2:美しい文字組みについて考える
   (InDesign組版教室 出張版)
   紺野 慎一(凸版印刷株式会社)
   大石 十三夫(なんでやねんDTP
   宮地 知(大阪DTPの勉強部屋
A-3:InDesign作業の時短に欠かせないスクリプトを活用
   [DTPの勉強会(東京)出張版]
   丸山 邦朋(ものかの
A-4:InDesign新機能(CS6/CS5.5/CS5)
   大橋 幸二(DTPの壺ろぐ
   大倉 壽子(アドビ全製品を網羅しているスペシャリスト)
A-5:InDesignの出力に関する理想と現実
   (PDF出力、本当に使えるの?)
   笹川 純一(株式会社吉田印刷所)
   柴田 勉(株式会社ノア・デジタル
A-6:全員参加型!? 私のアナタの欲しい機能
   小林 功二(株式会社マイナビ)
   あかね(印刷会社勤務・ちくちく日記
   岩本 崇(アドビ システムズ株式会社)

すべてのセッションで共通しているのは、クオリティーが求められるのは当然として「効率」だと感じました。以前にも増してスピードが求められている今、InDesignが持つ機能を巧く使いこなし、「早急に、なおかつ完璧に出力し納品まで行うこと」は不可欠です。

参考になるポイントは人それぞれだと思いますが、私が最も参考になったのは、セッションA-5「InDesignの出力に関する理想と現実(PDF出力、本当に使えるの?)」でした。
「PDF出力」は、印刷所内での最小限の行程で印刷まで行うことができる、言わば人の手を介さない究極の入稿システムです。
ただ、PDF出力用の完璧なデータ制作が条件になりますので、デザイナーやDTPオペレーターのその為の理解は必要最低の条件となります。また、印刷会社の体制整備も必要ですので、すべての条件面においてまだまだ一般的ではないという感も否めませんが、今後増えていくのではないかと思っています。
今回は、PDF書き出しプリセット(PDF/X-1a、PDF/X-3、PDF/X-4)の差異や、透明とオーバープリントの扱いなどについても学びました。今までそうするものだと思っていたことが「なぜそうしなければならないか」という理解に変わるのは楽しいものです。

今回紹介された機能や方法ををすべて使いこなせたら最強ですが、それぞれの仕事や環境に合わせて、少しづつでも上手く取り入れていきたいですね。

2012年7月17日火曜日

「デヴィッド・リンチ展 “David Lynch”」:アートとデザインの差異について


デヴィッド・リンチ展 “David Lynch”
映画であれ、絵画であれ、写真であれ、デヴィッド・リンチの作品について語る事は無意味です。自身の作品の持つ不可解さ故、「あれはなんだったんですか?」的なインタビューを受ける度に、本人が言っているのだから間違いは無いでしょう。

「批評や答え合わせは無意味だ」というのは一見、突き放したような言葉ですが、実はこの言葉には続きがあります。リンチは「作品が不可解であれば、不可解であるという印象を受けた、自分自身の印象をもっと尊重してください」という事をインタビューで繰り返し答えているのです。「あなたにとって何よりも大切なのは、あなた自身ですよ」という事ですね。

自分とは利害関係が一致しない、立場が違う相手を尊重し、存在を認める事、他者を想定する事は、民主主義の持つ或る一面だと思います。「あなたがイレイザー・ヘッドを観てどう感じようと、作者であるリンチがこう言っているのだから、あなたの解釈は間違っている」というのではなく、「作者である私の言葉よりも、作品に触れてあなた自身に起こった感情や印象をなによりも尊重してください」という事ですね。

答え合わせではなく、自分自身を尊重するとどういう良い事があるのでしょうか? 例えば、ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を頑張って読破してはみたものの、本を閉じた時に感じた感想が「さっぱりわからなかった」というものだったとします。それではその読書に費やした時間は無駄だったのでしょうか? 私はそうは思いません。一見、『わからかった』という経験の積み重ねが、知性の厚みを作るような気がします。リンチ作品に関しても、作品それ自体から受けた印象が財産であり、技法云々はその他の些末なトピックに過ぎません。

クライアントがデザインに期待する役割には、問題解決の領域が多分に重なっています。チャールズ・イームズのように「デザインとは、問題解決の手段だ」と言い切っている人もいます。
例えば、日本語を解さない外国の方が日本で交通事故に遭わないように交通標識や信号機の表示をデザインする事。例えば、多機能化して操作が複雑になりすぎた携帯電話を使いやすくする為に、物理的なボタンは一つに絞り込んだiPhone。
映画のような芸術作品とデザインという仕事の差異はここにあり、逆に両者に通底するのは『ものを伝えようとする意志』でしょう。デザインで情報をより多くの人に、的確に伝える為には他人と自分の解釈の違いに寛容になる事が必要なんでしょうね。「私はこう感じたけど、なるほど、あなたはそう感じたのですか」という認識を幅広く持つ事の大切さ。そんな事を再確認した展覧会でした。

最後に、もう一つ。
デヴィッド・リンチはどうして『ツイン・ピークス』はあんなにヒットしたのでしょう? というインタビューにこう応えています。

「わからない。作品に起こる事はコントロール出来ない」


この「デヴィッド・リンチからのメッセージ」も作品のひとつです。


「デヴィッド・リンチ展 “David Lynch”」は、「8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery」で、7月23日(月)まで開催されています。

2012年7月5日木曜日

「DTPの勉強会 第7回」:Adobe Illustrator アピアランス


「DTPの勉強会 第7回」に参加してきました。
今回のテーマは「イラストレーターアピアランス活用術」。

メインセッション - 1
「DTPを少しでもラクにする、アピアランスのコツ。」
 スピーカー:にしのさん
○内容:少しでもラクする為に考えた、アピアランス(グラフィックスタイル)活用を紹介。
メインセッション - 2
「DTPで役立つアピアランスイラスト活用術」
 スピーカー:hamkoさん( ham factory
○内容:イラストを制作する場合、どのようにアピアランスが使われているかを紹介。また、DTPでも役立ちそうなちょっとしたイラストTIPSも紹介。
サブセッション - 1
「カラーマネージメントことはじめ」スピーカー:島崎肇則さん
○内容:カラーマネージメントの初歩の初歩として、「モニタとプリンタの色をなるべく同じように見えるする」ために、ディスプレイプロファイルの概要と運用の仕方、プリンタプロファイル等についての解説。
サブセッション - 2
「カワココ再び」スピーカー:カワココさん( イラレラボ )
○内容:大日本スクリーンの出力の手引きWebで、出力のテストに使用されたクジャクのイラストの制作方法について、Illustrator CS6から搭載された線グラデーションの使い方をメインに解説。
ショートセッション「CS6のあれこれそれ」

Adobe「Illustrator」には「アピアランス」という便利な機能があります。(「アピアランス」の基本機能については、こちらこちらを参考にしてください。)この会に参加するまで「アピアランス」というのは、主に文字にフチを付けたり枠を装飾するためのものだと認識していました。今回の勉強会で「アピアランス(グラフィックスタイル)」を活用し、修正がしやすいデータ制作を追求されているにしのさんと、ただの丸や多角形からビスケット・花などのイラストを制作するhamkoさんのデータ制作を学べた事は、大きな収穫でした。直前まで価格データが決定しないチラシなど、スピードを求められる現場では、巧く活用できれば有効な機能です。

ただ気をつけなければならないのは、「アピアランス」は多用し過ぎたりすると出力サイドに負荷がかかります。データが思い通りに出力されなかったり、出力時に時間がかかってしまったり、という危険が伴うこともあるそうです。この辺りのバランスを掴むには、経験とコミュニケーションが大切ですね。間違いのない仕事を進めていく為には、制作・出力の両サイドの意見を尊重する事も大切です。幸運な事にこの勉強会にはその両者の方がいらっしゃるので、双方の意見が聞けるという大変貴重なものでした。

私の場合、クライアントさんでデータを取りまとめて印刷会社さんへ入稿することが多かったり、下位バージョンでの入稿を求められたりすることがあるので、途中問題が発生しないようになるべく安全なデータ制作を心がけています。しかしそうした安全なデータだと、素早く修正する事ができないことがあります。
・新しく追加された機能を巧く取り入れつつ、
 全体の行程に気を配ってデータ制作を行っていく事の大切さ。
・そして「アピアランス(グラフィックスタイル)」が
 印刷用データでもかなり使えるという事。
以上の二点を今回は学びました。
今後の仕事に巧く活用していきたいと思います。

DTPの勉強会 【DTPの勉強会第7回】